テーゼ(正): ゴールドは歴史的に確立された価値保存手段
- 中央銀行は米ドルや国債ではなく金を購入している。
近年、米国の財政悪化やインフレ、地政学リスクへの懸念から世界の中央銀行が外貨準備の構成を見直し、金の保有を急増させている。2023年以降、中央銀行は毎年1,000トン以上の金を購入しており、長期国債よりも金の保有割合が大きくなった。国際通貨基金(IMF)の統計によると、2024年10月時点で中央銀行の月間純買入が今年最高となり、2025年にはさらに約900トンを買い増すと見込まれている。こうした「買い」はドル依存の低減(デドル化)を目的とした政策であり、金は米国財政への不安や地政学の緊張に対する安全資産として選ばれている。 - 金は数千年にわたり価値保存の役割を果たしてきた。
フォン・グライアーツ氏によれば、金は貨幣として何千年も使われ、人類が価値を認め続けてきた。通貨の歴史的な価値下落に対し、金は価値を維持しやすいとされる。実際に金は2024年の初めから約29%値上がりし、S&P500を上回るリターンを示した。中央銀行による需要と投資家のヘッジ需要が堅調である限り、金価格は構造的な支援を受け続ける。 - 富裕層の資産保全戦略としての適合性。
フォン・グライアーツ氏は富裕層に向けて資産保全の助言を行っており、リスクが極めて低い資産に重きを置く。金はゼロリスクではないが、価値が“ゼロになる”可能性は極めて小さい。歴史的に金が価値保存の役割を果たしてきたことから、資産保全の観点でゴールドを推奨するのは合理的である。
アンチテーゼ(反): ゴールドもビットコインも社会的合意に支えられる
- 金の価値も本質的価値ではなく合意に依存している。
ゴールドの産業用途は美術工芸品や歯科治療など限られ、その価格を支えるほどの実需は無い。金の価値の大部分は「貨幣の代替として役立つ」という投資家の信念に基づいている。したがって、金もビットコインも社会的合意によって価値が支えられている点では似ている。 - ビットコインには希少性や分散性という独自の強みがある。
ビットコインは発行上限が2,100万BTCに固定され、マイニングやネットワークに支えられた分散型システムである。2025年には現物ETFの承認を受け、機関投資家による買い入れも進んでいる。実際、2025年第3四半期のビットコインスポットETFへの流入額は78億ドルに達し、10月第1週だけで32億ドルが流入した。機関投資家が価格下落局面で買い支えた結果、ボラティリティが抑えられつつある。こうした動きはビットコインが長期的な価値保存手段として認知され始めた兆候とも言える。 - ビットコインはリターンポテンシャルとリスクが大きい。
フォン・グライアーツ氏自身、ビットコインが100万ドルになる可能性を認めつつも、ゼロになる可能性も指摘している。2025年に入ってから金に比べてパフォーマンスが劣る局面が増えたことや、量子計算技術や規制の不透明さなど技術的リスクがある。しかし、ボラティリティが高い資産ほどリターンも大きくなる可能性があり、投機や決済手段としての利用価値は無視できない。 - ビットコインは投資ポートフォリオの分散に役立つ。
金が危機時に安全資産として機能する一方で、ビットコインは依然として分散投資のツールとして有効であると専門家は指摘する。金とビットコインを併用することで、異なるリスク要因に対するヘッジが可能となり、多様なポートフォリオ戦略が実現できる。
ジンテーゼ(合): 目的に応じた共存とリスク調整後リターンの重要性
- 「資産保全」と「投機・決済」を分けて考えるべき。
金は価値がゼロになる可能性が限りなく低く、長期的なインフレヘッジとして機能してきたため、富裕層の資産保全に適している。一方でビットコインは技術的リスクや規制リスクを抱えるが、高い成長ポテンシャルとデジタル決済インフラとしての利点を持つ。フォン・グライアーツ氏自身も、ビットコインを決済システムや投機対象としては認めつつ、資産保全には適さないと述べている。 - リスク調整後リターンが判断基準。
投資対象を比較する際は、単なるリターンではなくリスク調整後リターンを考慮する必要がある。ゴールドはリスクが低い一方、リターンも大きくは期待できない。ビットコインはリターンが高い可能性があるが、ゼロになるリスクも存在する。したがって、資産保全を求める投資家はゴールドの比率を高め、リスクを取れる投資家はポートフォリオの一部にビットコインを含めるといったバランス戦略が適している。 - 両資産の役割を理解した上でポートフォリオを構築する。
中央銀行や機関投資家が金を積極的に買い増している現状は、ゴールドの安全資産としての地位を再確認させる。同時に、ETFの登場や機関投資家の参入はビットコインの成熟を促し、デジタル資産としての位置づけを強めている。未来の通貨システムがどうなるかは未確定だが、両資産が共存し得るシナリオに備え、リスク許容度や投資目的に応じた適切な配分を検討することが重要である。
最後に要約
- 歴史と実需を背景に金は資産保全の主役。中央銀行による記録的な金購入やデドル化の流れが金価格を支え、数千年にわたる価値保存の実績が富裕層の安全資産としての地位を固めている。
- 金とビットコインはともに社会的合意によって価値を持つ。金の実用価値は限定的であり、その価値は通貨の代替としての信認に依拠している。ビットコインも希少性と分散性に支えられ、ETF流入や機関投資家の参入によって価値保存資産としての評価を高めつつある。
- 両資産を二項対立ではなく補完的に捉えることが重要。金は安定したヘッジ資産、ビットコインは高リターン可能性とデジタルインフラとしての機能を持ち、リスク調整後リターンを踏まえたポートフォリオの分散が鍵となる。

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