1. テーゼ:不景気でも株高は続く可能性がある
- マクロ環境と資産インフレ
- 現代は金融緩和と膨大な流動性によって株式市場に資金が流入しやすい。2025年時点で米国のCPIは約3%であるものの、FRBは景気下支えのために利下げ方向に転換し、投資家心理を支えたため、2025年第3四半期はS&P500が8.11%上昇し、年初来リターンは約11%に達した。これは実体経済の成長が鈍化する中でも株価が上昇しうることを示す。
- AI関連企業の利益成長や高収益企業への資本集中も株価を押し上げている。
- 相対的な投資先不足
- 債券はインフレや金利上昇局面では価値が目減りしやすく、現金もインフレで実質価値が減る。そのため株式が「マシな投資先」として選ばれ、株価が下支えされることがある。
- 2024年時点の「ミズリー・インデックス」(失業率+インフレ率)は7.3に過ぎず、1970年代の12超とは大きく異なる。失業率が比較的低いため、経済全体が深刻なスタグフレーションに陥っているとは言い難く、企業収益も維持されやすい。
- インフレと名目成長の錯覚
- インフレは企業の売上高や利益を名目で押し上げるため、株価指数が見かけ上高値を付けやすい。実際、1970年代のダウ平均は10年間でほとんど変わらなかったが、インフレにより名目値は維持された。
2. アンチテーゼ:高インフレ下では株高は続かない
- 歴史的先例—1970年代のスタグフレーション
- 1970年代は高インフレ・高失業の典型的なスタグフレーション期だった。原油危機や財政赤字による供給ショックでインフレ率が5〜10%以上に達し、米国では1973〜74年にS&P500が約50%下落した。名目の10年間リターンは17%で、インフレを考慮した実質リターンは50%の下落に相当する。
- この時期は失業率も高まり、株式のPER(株価収益率)が半減するなど、バリュエーション調整が起こった。
- インフレと金利の上昇は株価の重荷
- インフレが高止まりすると中央銀行は政策金利を引き上げ、ディスカウント率上昇で株価バリュエーションが圧縮される。1970年代のFRBはインフレ退治のために政策金利を20%以上まで引き上げた。
- 企業のコストが上昇する一方で、景気後退により売り上げが伸び悩むため利益率が低下し、株価が下落しやすい。
- 実質リターンの悪化
- 株価が名目で上昇していても、インフレ率がそれ以上であれば実質リターンは低迷する。1970年代のS&P500の年間複利リターンは5.9%だったが、インフレは7.4%で、実質的にはマイナスであった。
3. ジンテーゼ:条件付きで株高は成立しうるが持続性には疑問
- 適度なインフレと政策対応で株高が成立
- 1970年代型の「不景気+高インフレ+高失業」と異なり、2020年代中盤はインフレが中程度かつ失業率が低い。FRBが景気後退を回避するために利下げや量的緩和を実施すれば、実体経済の弱さにもかかわらず株価が高水準を維持する可能性がある。
- 実際、2025年はGDP成長率が鈍化する一方で、投資家は次の利下げサイクルを期待し、株式市場が上昇した。
- しかし長期的には実質リターンが問題
- インフレが長期化して景気後退が深刻化すれば、1970年代のように株価は名目でも下落しやすく、実質リターンはさらに悪化する。S&P500がインフレ調整後に1968年の高値を回復したのは1995年で、約30年間も実質の停滞が続いたという点は無視できない。
- したがって、インフレと不景気の組み合わせが続く場合、株式よりもコモディティやエネルギー、あるいは不動産などインフレ耐性のある資産に分散した方が良い。1970年代には石油・金など資源株や金などの貴金属が大きく上昇し、株式を上回るパフォーマンスを記録した。
- 資産配分の柔軟性が重要
- 適度なインフレ時には株式投資を継続しつつ、現金や債券の比率を調整し、物価上昇に連動する資産を保有する戦略が求められる。政策やサプライショックの変化に応じたバランスが鍵となる。
■まとめ
- 歴史的教訓: 1970年代のスタグフレーションではインフレと不景気が同時進行し、S&P500は名目で横ばい、実質で大幅下落した。高インフレ下での株高継続は過去には起こらなかった。
- 現代の状況: 2025年時点では失業率が低く、インフレは中程度で、FRBの利下げ期待もあり株価は高値圏にある。これは「不景気でも株高」という一面を見せているが、条件は1970年代より有利。
- 結論: 長期的には高インフレと景気後退が続く場合、株式の実質価値は下落しやすい。短期的には金融政策や市場心理によって株高が続くこともあるが、資源株やコモディティへの分散がリスク管理上不可欠である。

コメント