主張(テーゼ)―インド経済は魅力的で投資に値する
- 成長の力強さ
インドの2025年第3四半期GDPは前年同期比8.2%増と、市場予想(7.3%)を大きく上回りました。個人消費が税制優遇と低インフレに支えられ7.9%増え、製造業も9%強伸びるなど多方面からの成長が確認されています。高い潜在成長率と人口ボーナスが続く国として、長期的な成長余地は大きいと考えられます。 - 低インフレと政策余地
10月の消費者物価指数は前年同月比0.25%と非常に低く、金融緩和の余地があることも魅力です。GDP発表前は12月のインド準備銀行(RBI)政策金利会合で0.25%の利下げが見込まれ、低金利環境が株式や不動産市場を支えるとの期待が高まっていました。 - バリュエーションの低下
米中貿易摩擦や外国人投資家の資金流出により、インド株式の価格収益率(PER)は過去平均と比べて割安水準に接近しています。政府はロシア原油への依存縮小を打ち出し、長期的にはエネルギー供給の多角化が進む見込みであるため、中長期投資の好機との声もあります。
反対意見(アンチテーゼ)―インド市場には重大なリスクがある
- 米国の通商圧力による不確実性
米国はロシア産原油の購入を続けるインドに対し最大50%の追加関税を課し、H‑1B新規申請に10万ドルの手数料を導入しました。この結果、9月にはルピーが過去最安値近くに下落し、IT関連株指数は年初来で18%以上下落するなど市場は打撃を受けています。このような対外環境の悪化は企業の投資計画や輸出に長期的な不確実性をもたらします。 - ロシア原油依存と外交リスク
トランプ氏はモディ首相がロシア原油の購入停止を約束したと述べましたが、インド政府は公式には認めておらず、主要製油会社は制裁対象外の企業からの調達を継続しています。ロシア原油への依存率が高いままでは、米国制裁や価格動向に翻弄され、エネルギーコストが上昇するリスクがあります。 - 利下げ見通しの後退
GDPが予想以上に強かったため、12月の政策金利を据え置くべきとの意見が市場で強まりました。利下げ期待が後退すれば企業の資金調達コストは下がらず、株式市場の上昇余地は限定的になる可能性があります。
統合(ジンテーゼ)―慎重な楽観論が妥当
両者の主張を総合すると、インド経済は強い成長力と低インフレという追い風があるものの、米国の貿易・移民政策やロシア原油問題など外的要因による不確実性も大きいことが分かります。短期的には政策金利据え置きやルピー安が続く可能性があり、市場のボラティリティも無視できません。一方で、外部ショックが落ち着き、政府がエネルギー供給の多様化や企業の競争力向上を進めれば、人口増加と内需拡大を背景に長期的な成長シナリオは維持されるでしょう。
最後に要約
2025年7〜9月期のインドGDPは予想を大きく上回り、内需と製造業が牽引して8.2%成長となった。低インフレを背景に利下げが期待されたが、予想以上の成長で政策金利据え置き観測も浮上している。米国の大幅な関税やH‑1Bビザ手数料導入によりインド株とルピーは年初来で下落し、ロシア原油への依存を巡る外交リスクも残る。しかし株式のバリュエーションは過去水準に近づき、政府がエネルギー多角化を進めるならば長期的には投資妙味があるとの見方もある。

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