負債圧力と資本政策の交差点:MSTRが2年分の配当原資を積む意味

〈序論〉
2025年12月に米上場企業ストラテジー(MSTR)は、ドル建て配当金と社債利息の支払資金として14.4億ドル(約1.8年分相当)のドル準備金を新たに確保した。そのためにATM(アット・ザ・マーケット)を活用し、mNAVが1を上回る水準で自社株を市場で売却した。加えて、mNAVが1を下回り外部資金調達が難しくなった場合にはビットコインを売却して準備金を確保する方針を初めて明示した。この戦略には賛否があり、弁証法的に検討することで両面を理解しやすくなる。

〈正:政策を支持する立場〉

  • 資金繰りの安定:配当と社債利息を支払うためのドルを確保することで、短期的な市場の急落に備え、経営基盤を安定させる。特にビットコイン価格の急落時にドル不足で配当を停止すれば、信用が損なわれかねない。
  • 責任ある発行体としての姿勢:優先株や社債を通じて資金を調達している同社にとって、配当原資の明示は投資家への重要なメッセージであり、金利上昇局面での資金調達コスト低減にも寄与する。
  • 割高な株式を利用した調達:mNAVが1より大きい時に株式を売却すれば、保有ビットコイン当たり価値よりも高い価格で資金を調達でき、既存株主への希薄化影響を抑えつつ資金を確保できる。
  • 売却条件の透明化:mNAVが1を下回る場合にビットコイン売却を検討するというルールを事前に提示することで、投資家が会社の資金繰りリスクを把握しやすくなり、市場との対話が進む。
  • 配当政策の強化:今回の14.4億ドルにより約21か月分の配当原資が確保され、目標の2年分にほぼ達したことで、近い将来の追加希薄化への懸念が後退する。

〈反:批判的な立場〉

  • 希薄化リスク:自社株売却による資金調達は既存株主の持分を薄める。mNAVが1.17倍とわずかなプレミアムに過ぎない水準であっても継続的に発行を続ければ一株当たりビットコイン保有量が減少し、株価の魅力が低下する可能性がある。
  • “ビットコインを売らない”という神話の揺らぎ:創業者マイケル・セイラーは長年「買い持ち(HODL)」を強調してきたが、mNAVが1未満になればビットコインを売却すると初めて明言した。これが投資家に「底値売り」の不安を与え、発表直後に株価が急落した。
  • 巨額の負債と利払い:会社は約82億ドルの転換社債など巨額の負債を抱えており、2027〜28年の満期時には巨額償還資金が必要になる。その資金繰りへの懸念が配当資金確保に先行して存在しており、ドル準備の14.4億ドルでは到底足りないとの見方もある。
  • 機会損失:ドル準備金として保持する現金はビットコインに投資した場合よりもリターンが低い可能性がある。急速に上昇する局面でドルを保持していれば機会損失になり、ビットコイン価格が下落すればビットコイン売却を強いられるというダブルリスクがある。
  • 市場のシグナル効果:今回の方針転換は短期的な資金繰り問題を暗示していると受け取られ、信用格付けにも影響しうる。債券格付けが「B-」と低い水準に留まり、資金調達コストが高止まりしている現実を投資家に思い出させた。

〈合:総合的な見解〉

ドル準備金の確保は、ビットコインを財務リザーブとする企業が伝統的な資本市場との橋渡し役になる過程で避けて通れないリスク管理策である。mNAVが1を上回る時には株式発行で資金調達し、1を下回る非常時にはビットコイン売却も辞さないというルールは、信用投資家や規制当局に対する説明責任の観点からも合理的だ。しかし、この政策は株主の希薄化や「売らない」というブランドの揺らぎを招き、巨額債務の影響が払拭されていない以上、根本的な解決にはならない。

〈要約〉

ストラテジーは14.4億ドルのドル準備金を確保し、少なくとも1年(将来的には2年)分の配当・利払い資金を賄える体制を整えた。mNAVが1を上回る時に株式を売却することで割高な株価を活用し、1未満の場合や外部資金調達が途絶した場合にはビットコイン売却を行う方針を初めて明示した。賛成派は、これを責任ある資金管理として支持し、短期的な市場急変への備えや投資家への説明責任を評価する。反対派は、株式希薄化やビットコイン売却の可能性が「HODL神話」を揺るがすこと、巨額負債に見合う資金繰りが依然不透明であること、ドル保有による機会損失を指摘する。総じて、この政策はリスク管理上必要な一方、同社の投資ストーリーに内包される矛盾と課題を浮き彫りにしている。

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