口座凍結後の賃料管理

以下では、被相続人が所有していた土地(賃貸物件)から生じる地代・家賃をどのように管理すべきかをまとめています。被相続人の口座は死亡により凍結されているものとします。

1. 遺産分割未了の賃料(地代)の法的性質

  • 民法898条は、複数の相続人がいるときは相続財産は「共有」に属すると定めており、各相続人は自己の財産と同じ注意義務をもって共有財産を管理しなければなりません。
  • 最高裁平成17年9月8日判決では、相続開始から遺産分割までに発生した賃料債権は「各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得する」と示されました。つまり、遺産分割協議がまとまるまでの家賃は遺産ではなく、各相続人が法定相続分に応じて取得する債権とされ、後の遺産分割の影響を受けません。
  • 遺産分割が成立した後の賃料は、その不動産を取得した相続人が取得します。

2. 賃料の受け取り方法

  • 被相続人の預金口座は凍結されるため、従来の口座では家賃の振り込みを受けられません。そのため、相続人が協議して「振込先口座」を用意する必要があります。
  • 相続人が複数いる場合は代表者を決め、その代表者の口座に賃料を入金してもらう方法が一般的です。使い込みを防ぐために、通帳やキャッシュカードを別の相続人が管理する等の工夫が推奨されます。
  • 賃貸経営に慣れていない相続人が多い場合や公平な管理が難しい場合は、不動産管理会社と「集金代行契約」を締結し、会社に家賃を集めてもらう方法もあります。管理会社は遺産分割が決まった段階でまとめて相続人の口座に送金します。

3. 賃料の管理と分配

  • 遺産分割未了の賃料は各相続人の法定相続分に応じて分割されますので、代表者が受け取った賃料は法定相続分どおりに他の相続人へ分配する必要があります。分配しない場合、他の相続人から不当利得の返還請求を受ける可能性があります。
  • 管理費や修繕費など相続財産に関する費用は、まず遺産から支出することが民法885条で定められており、相続人全員で負担するものとされています。
  • 相続人間で紛争にならないよう、賃料収入と支出の明細・領収書を保存し、遺産分割協議書に賃料の分配方法や費用負担の方法を明記することが推奨されています。

4. 借主が支払い先を特定できない場合

  • 相続人が誰かわからない、または相続人間で支払先が決まらない場合でも、借主は賃料を支払わないと賃貸借契約の解除事由になるため支払義務があります。
  • 支払先が特定できない場合は、法務局の「供託制度」を利用し、地代を供託することで支払ったことになります。ただし供託が認められるのは賃貸人の相続人が不明な場合等であり、相続人が判明している場合は相続人の同意なしに供託することはできません。そのため、相続人が複数いて協議がまとまらない場合には、相続人全員が合意した振込先口座への支払いか、管理会社を介した入金が現実的です。

5. 相続財産管理人の利用

  • 相続人が多数いて遠方に住んでいる場合や対立が激しい場合など、遺産の適正な管理が難しいときは、家庭裁判所に「相続財産の保存に必要な処分」として財産管理人の選任を申し立てることができます。財産管理人は弁護士が選任されることが多く、善管注意義務のもとで遺産を管理し、賃料の受領・保存を含む管理業務を行います。

6. 確定申告等の税務上の注意

  • 遺産分割が確定するまでの賃料については、各相続人が法定相続分に応じて受け取っているものとみなされるため、各自が不動産所得の確定申告を行う必要があります。

要約

被相続人の口座が凍結されている場合、相続開始後の地代・家賃の振込先をあらかじめ相続人全員で決めることが重要です。遺産分割がまとまるまでの賃料債権は相続財産には属さず、各共同相続人が法定相続分に応じて確定的に取得する債権であり、後の遺産分割の影響を受けません。そのため、賃料は代表相続人の口座や管理会社を通じて一旦受領し、法定相続分どおりに分配する方法が一般的です。支払先が決まらない場合は、供託制度を利用して賃料を納付することもできますが、相続人が判明している場合は供託が認められないため、相続人間で振込先を決めるか財産管理人を選任することになります。

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