2018年中間選挙と株式市場19.8%調整:政策リスクが生んだ急落

2018年中間選挙前後の米国株式市場の下落率

  • 2018年秋の米国株式は、年初の上昇局面を経て9月20日に史上最高値を付けた。S&P500は2930.75まで上昇し、その後3か月間で急落した。
  • S&P500は12月24日に2351.10へ下落し、ピークから約19.8%の下落となった。この19.8%はほぼ弱気相場入り寸前の「ほぼ20%」に当たり、同年のドローダウンの最大幅といえる。マロッタ財務アドバイザーの分析でも「新高値の2930.75から2351.10まで下落し、-19.78%となった」と確認されている。
  • ワシントン・ポストの同年12月時点の記事では「9月20日からS&P500は約15%下落した」と報じられており、ピーク時からの下落率は12月中旬には15%前後、年末には19.8%まで拡大したと推測できる。

弁証法的分析

  1. テーゼ(肯定要因)—好調な経済と強気相場
    • 2018年は年初から企業業績が好調で、税制改革による法人減税や米国景気の力強さが株高を支えた。失業率は歴史的低水準、GDPも堅調で、経済指標は「好調」だった。
    • ドナルド・トランプ政権の減税政策で企業利益が伸び、株式市場は9月まで上昇を続けた。S&P500の過去のシラーPERが平均16.59であるのに対し、2018年1月時点では33.31と高水準で、投資家のリスク選好が高まっていた。
  2. アンチテーゼ(否定要因)—政策リスクと過熱感
    • 貿易戦争と政治不確実性:トランプ政権の対中関税拡大と報復関税は世界経済の先行き不安を高めた。PBSの分析によれば、2018年の株価下落は「トランプ大統領の対中貿易戦争と世界経済の減速、FRBの利上げへの懸念が弱気反応を生んだ」と指摘している。Voxも、米中関係の悪化が株式市場に悪影響を与えたとし、トランプ大統領と中国の対立が投資家心理を冷やしたと説明する。
    • FRBの利上げ:米連邦準備制度理事会(FRB)は2018年に4回利上げを実施した。PBS記事では「FRBが利上げを続けると景気後退を誘発するとの懸念が強まり、投資家の不安を呼んだ」と述べている。Fedの政策に対しトランプ大統領が「フェドは狂っている」と批判したことも不安材料となった。
    • 大型ハイテク株の調整:S&P500指数の約11%を占める「FAANG」などの大手ハイテク企業は、個人情報保護や独占規制の問題で議会や規制当局の監視を受けた。PBSは「5大テクノロジー企業が厳しい監視を受け、セクター全体を押し下げた」と指摘し、VoxはFacebookなどの規制強化への懸念が市場を動揺させたと伝えている。
    • 高バリュエーションと利確売り:株価は過去最高水準まで上昇していたため、投資家は過熱感を警戒しており、ワシントン・ポストは2月初旬に「賃金上昇によるインフレと金利上昇への懸念が強まり、ダウが1,175ポイント急落した」と報じている。これは、金融緩和終了後の相場変調を示す予兆だった。
  3. アンチテーゼに対する補助材料(中間選挙の影響)
    • 11月6日の中間選挙自体は「民主党が下院を奪還し、共和党が上院多数を維持」する結果となり、政治は分断された。市場はこの結果を好感した。フォーチュン誌によれば、中間選挙翌日(11月7日)にダウとS&P500はともに2.1%上昇し、ナスダックは2.6%上昇した。フォーブスはCNNを引用し「ダウが約550ポイント(2.1%)上昇し、S&P500が2.1%、ナスダックが2.6%上昇した」と伝えている。東オレゴニアン紙も「民主党が下院を取り、共和党が上院を維持した結果、政策が大きく変わる可能性が低くなり、投資家心理が落ち着いた」と報じた。このように、中間選挙結果は市場の反発材料となり、急落の直接の原因ではなかった。
  4. シンセーシス(総合)—危機と回復の弁証法
    • 2018年の株価急落は、長期的に続いた強気相場が政策リスクと過熱感によって一時的に「修正」された現象である。S&P500は9月20日の高値から12月24日の安値まで約20%下落した。これにより割高だった株価水準が調整され、投資家はリスクを再評価した。
    • しかし、米経済の基本は引き続き好調であった。2019年1月にFRBのパウエル議長が「忍耐強い姿勢」を表明すると市場心理は改善し、米中貿易協議への期待も高まった。翌2019年にはS&P500が急速に回復し、6月には新高値を更新。この回復は、短期的な政治・政策リスクが解消されると資本市場が元のトレンドに戻ることを示している。
    • 弁証法的に見ると、2018年の市場急落は「景気拡大と株高(テーゼ)」と「政策リスクと過熱感による不安(アンチテーゼ)」の対立から生まれた。対立の中で市場は短期的に急落したものの、2019年にかけて経済指標と政策の安定化が進み、「修正後の回復」という新たな総合へと移行した。中間選挙は政治的な均衡をもたらし、極端な政策実行リスクを低下させることでこの総合を後押しした。長期投資家にとって、政治イベントや政策リスクによる短期的な変動は避けられないが、株式市場は経済の基本的な成長力を反映するため、過度に動揺する必要はない。

要約

2018年の米国株式市場は9月20日にS&P500が史上最高値の2930.75を記録した後、米中貿易戦争の激化、FRBの相次ぐ利上げ、ハイテク企業への規制強化懸念などが重なって投資家のリスク回避姿勢が強まり、12月24日の2351.10まで約19.8%下落した。この下落は「ほぼ弱気相場入り」の深さであり、年末にかけての市場急変の象徴となった。一方で、11月6日の中間選挙は民主党が下院多数、共和党が上院多数を維持する「分断政府」となり、市場では極端な政策が抑制されるとの期待から選挙翌日に株価が2%超上昇した。弁証法的に見れば、強固な経済と高株価(テーゼ)に対し、政策リスクや過熱感(アンチテーゼ)が対立した結果が2018年秋の急落であり、FRBの政策変更や貿易交渉の進展により2019年には回復(シンセーシス)へと転じた。

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