デリバティブの帝国COMEXと国家が抱える金塊

①テーゼ:COMEXは多くの国の外貨準備を上回る巨体

金先物の中心であるCOMEXの標準契約は1枚100トロイオンス(約3.11kg)です。GC(100オンス契約)とマイクロ(10オンス契約)を合わせた建玉は約4,580万オンス、重量にして1,400トン以上に達します。また日中の取引高は1日あたり約2,700万オンス(約840トン)とされ、登録や適格として倉庫に積み上がった金も約3,900万~4,300万オンス(1,200~1,300トン)に膨らみました。これらの数字はインド(約822トン)や日本(約846トン)、スイス(約1,040トン)といった国の公的保有量を上回り、ドイツやイタリア、フランスの半分近い規模に相当します。つまり、COMEXは単独で中堅国家に匹敵する金保有量を動かしていることになり、世界の金価格に対して強力な影響力を持ちます。

②アンチテーゼ:中央銀行の保有には遥かに及ばない「紙の金」

一方、主要国の外貨準備の核である金保有量は、米国8,133トン、中国2,262トン、ロシア2,333トンと桁違いです。米国の金保有量はCOMEXの建玉や倉庫在庫のおよそ6~7倍であり、中国もCOMEX在庫の約1.7倍を保有します。しかも中央銀行が保有するのは現物そのものであるのに対し、COMEXで取引されるのは多くが満期前に差金決済されるデリバティブです。1日に840トン相当が売買される高い回転率も同じ金が繰り返し手を変えて移動しているにすぎず、実際に引き渡しが行われるのは建玉の一部です。つまり、COMEXは流動性とレバレッジに支えられた「紙の金」の世界であり、長期保有の外貨準備とは性格が異なります。

③ジンテーゼ:流動性市場と実物保有の相補関係

COMEXと中央銀行の金保有は対立する存在ではなく相補的です。大規模な先物市場が存在することで、金の価格は透明になり、ヘッジや裁定取引が可能となります。これにより中央銀行や長期投資家は市場からの価格シグナルを得て政策判断を行えます。一方で、各国の外貨準備に含まれる莫大な現物金は、先物市場の信用基盤を支えています。近年COMEX倉庫への金流入が急増したのは、先物の信用力を高めるためでもあり、実物との紐付けがなければ巨額のデリバティブ市場は成り立ちません。したがって、膨れ上がる「紙の金」が価格を歪めるリスクはあるものの、中央銀行の現物保有が裏付けとなって市場の安定と発展を支えています。投資家は、COMEXで取引される先物が実物金ではなく価格変動へのエクスポージャーだという点を理解し、外貨準備のような安全資産とは目的が異なることを認識する必要があります。

要約

  • COMEX金先物の建玉・在庫は約1,200〜1,400トンと巨大で、インドや日本など多くの国の公的金保有量を上回る。
  • しかし米国や中国など主要国の外貨準備に含まれる金はさらに多く、COMEXの複数倍の規模を持つ。
  • COMEXで取引されるのは主に差金決済を前提としたデリバティブであり、回転率が高い「紙の金」である。
  • 中央銀行が保有する現物金は、先物市場の信用力を支える一方、先物市場は金価格の透明性と流動性を提供する。
  • 先物市場と実物保有は相補的な役割を果たしており、投資家は両者の性質とリスクを理解して活用すべきである。

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