正:依然として強大な機関投資家の存在感
- 市場におけるシェアの大きさと集中度
OECDの分析によれば、多くの国で機関投資家が株式時価総額の20%以上を保有し、英国・アイスランド・米国のような主要市場では60%を超える。実際、米英の上場企業では「ビッグ3」運用会社(ブラックロック、バンガード、ステートストリート)の上位3社だけで一社当たり約23%の株式を所有しており、個別企業への支配力は強大である。 - 長期運用資本としての役割
機関投資家には年金基金、保険会社、基金など長期運用を前提とする組織が多く、企業への安定的な資金提供を通じて経営にガバナンスを求め、持続的な成長を促す役割を果たす。 - サステナブル投資での主導
グローバル・サステナブル投資連合の調査では、2020年時点で世界のサステナブル資産の75%を機関投資家が保有し、個人投資家は25%にとどまる。環境・社会・ガバナンス(ESG)課題への取り組みで主導的な役割を担うのも機関投資家であり、投票行動やエンゲージメントを通じて企業活動へ影響を与えている。 - 市場改革や規制への対応力
バーゼル規制やSolvency IIなどの資本規制に対応する体制や専門知識を有するのは大口機関投資家であり、リテール投資家では利用が困難なプライベート市場や複雑なデリバティブにもアクセスできる。 - 総体的資産規模の変化が緩やか
Indefiの報告によると、2021年の時点で機関投資家の運用資産は世界全体の31%を占めていたが、2030年には26%へ低下すると予測される。割合は縮小しているものの依然として巨額であり、成熟国市場では特に存在感が大きい。
反:個人投資家の台頭と多数派への躍進
- 世界全体の資産比率で過半数を占める個人投資家
世界経済フォーラム(WEF)の分析では、2021年にリテール投資家が世界の運用資産の52%を保有し、この比率は2030年には61%超に達すると予測される。同じ調査で機関投資家のシェアは31%から26%へ縮小すると見込まれ、資産全体の主役が個人へと移行していることを示す。 - 定額拠出型年金制度とテクノロジーの拡大
企業年金が確定給付から確定拠出へ移行したことで、資産形成の責任が個人に移り、積立投資やiDeCo(個人型確定拠出年金)の普及が進んだ。さらに手数料の低いネット証券やスマホアプリの普及が新たな投資層を取り込み、リテール投資家による保有資産は約295兆ドル、世界のAUMのほぼ半分に相当するとのBain & Co.の試算もある。 - 新興国市場でのリテール比率の高さ
Indefiの報告では、先進国以外では退職給付制度が整備されておらず、市場が**「リテール主導」になっている国が多い**と指摘される。つまり、人口ボーナス期にある新興国では個人マネーが資本市場の主導権を握りつつあり、世界全体の統計に大きな影響を及ぼしている。 - ミーム株やETFブームなど市場への影響力
コロナ禍以降、SNSを通じた情報共有やコミュニティ取引が拡大し、個人投資家が一部銘柄の価格を急騰させる「ミーム株」現象やETFへの巨額流入を引き起こすなど、市場の値動きに直接影響を与えている。 - 機関投資家の特徴が希薄化
Retail金融プラットフォームの進化により、個人でも低コストで分散投資が可能になり、かつて機関投資家の専売特許だった指数連動投資やオルタナティブ投資へのアクセスも広がった。これにより、機関投資家の伝統的優位性が相対的に低下している。
合:二極構造を超えた補完的関係と今後の展望
- 地域・資産クラスによる差異
機関投資家のシェアは国によって大きく異なり、英国・米国では上場株式の60%以上が機関投資家に保有される一方、フランス・ドイツなどでは20〜30%にとどまる。さらに業種別でも、金融やエネルギーなど資本集約型セクターでは機関投資家の占有率が高い。よって、単純なグローバル平均では評価できない多様性がある。 - パワーと人数の不均衡
個人投資家は数の上で優勢であり資産全体でも過半数を保有しているが、機関投資家は巨額の資金を集中運用しているため1社あたりの支配力が大きく、企業統治や議決権行使で実質的な影響力を保持している。したがって、資本市場における権力は必ずしも人数に比例しない。 - 役割分担と相互学習
機関投資家は長期的な資産配分・リスク管理・ガバナンスを主導し、ESG投資でも主役を担う。一方、個人投資家の台頭は市場の流動性を高め、革新的な商品やプラットフォームを生み出している。機関投資家はリテールの投資行動から学び、個人投資家は機関の専門性やリスク管理手法を取り入れることで互いに補完し合える。 - 将来の比率変化と政策対応
2030年には個人投資家のシェアが61%超になると予測される一方、機関投資家のシェアは26%に縮小する見通し。各国政府は資本市場の民主化を推進する一方で、個人投資家保護のための教育や規制整備を求められる。 - 結論
世界の投資額に占める時価総額比率は、個人が過半を占めつつも機関が依然として大きな影響力を持つ二極構造であり、今後はリテール比率の拡大と機関投資家の集中力が並存する形で推移すると考えられる。この変化に応じた政策や金融サービスの革新が求められる。
要約
- 機関投資家の影響力:主要先進国では株式市場の20〜60%以上が機関投資家の手にあり、米英ではビッグ3だけで一社当たり約23%の株式を握るなど支配力が大きい。2020年にはサステナブル資産の75%を保有するなど、長期投資とガバナンスで主導的役割を果たす。
- 個人投資家の台頭:WEFとIndefiの分析では、2021年にリテール投資家が世界の運用資産の52%を保有し、2030年には61%を超える見込みである一方、機関投資家のシェアは31%から26%に低下する。若年層や新興国を中心に参加者が急増し、295兆ドル近い資産を保有するという推計もある。
- 多様な地域・資産特性:国やセクターによって機関投資家の占有率は大きく異なり、米英では60%超、欧州大国では20〜30%にとどまる。このため、全世界的には個人が過半数だが、影響力は機関に集中する。
- 総合すると、世界の投資額は個人投資家が過半の時価総額を保有する趨勢にあり、今後その比率はさらに高まる見通しである。しかし機関投資家は集中度の高さから企業統治や市場構造に対する影響力を保持し続けており、双方が補完的に機能する市場環境づくりが必要である。

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