
引用元:moomoo証券
問題の図と仮説
チャートは、金連動ETFの価格(赤・緑のロウソク足)とS&P500指数(青線)を2018年7月から12月までの期間で比較したものと思われます。図では、夏から秋にかけてETF価格と株価が下落し、9月末に底値を付けた後、年末にかけて反発しています。これは2018年後半にトランプ大統領が中国に対する関税発動を宣言したことで市場が急落し、その後、関税の延期や交渉進展の兆しが出るたびに株価が戻ったというパターンに符合します。近年このような投資家の動きを「TACO(Trump Always Chickens Out)」トレードと呼びます。
質問者は、「第一次トランプ政権は中間選挙前後に米中対立を煽り、株式市場を暴落させた後、TACOトレードでV字回復させた。第2次政権でも同様のことが2026年の選挙に向けて行われる可能性が高く、トランプ支持者やスコット・ベッセント財務長官が利益を得るためだ」という仮説を提示しています。この主張について弁証法的に検討します。
テーゼ(主張):トランプ政権は意図的に市場を操作した
2018〜2019年の米中貿易戦争では、トランプ政権が関税引き上げを発表するたびに株式市場が急落し、交渉継続や関税延期を示唆すると株価が戻るという現象が続きました。例えばS&P500は2018年後半にほぼ20%下落し、その後2019年に約30%上昇して強気相場が続きました。2019年5月だけでもS&P500は米中貿易摩擦により6.6%下落し、VIX(ボラティリティ指数)は25を超える場面がありました。
市場の反発は、米政府が関税を延期したり交渉が順調だと示すたびに起こりました。この繰り返しが投資家の間で「TACOトレード」と呼ばれるようになり、トランプが「大幅関税」をちらつかせて株価が下げたところで買い、後に関税を撤回するときに売ることが有効とされました。別の例では、2025年4月に大規模な関税案が発表された後にS&P500が約12%急落し、その後ほぼ全値戻ししており、TACO効果が存在すると指摘されています。
こうした「脅しては引っ込める」戦術は、中間選挙の前後に支持者を結束させたり市場参加者に学習効果を与える意図があった可能性があります。強硬な交渉姿勢で政治的支持を固めつつ、市場の急落後に譲歩して株価を押し上げれば、株式を保有する裕福な支持層は利益を得ます。この文脈でベッセント財務長官が「大幅な関税は最大限の交渉ポジションのためだ」と説明し、長期的なオンショアリングの利益を強調していることは、政権側が戦略的に市場心理を利用していると解釈されることもあります。
アンチテーゼ(反論):市場の動きには多くの要因があり、意図的な操作と断定できない
2018年後半の株価急落には、貿易摩擦だけでなく米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げや世界景気減速への懸念など複数の要因がありました。貿易戦争に併せて「グローバル成長懸念」と「金融引き締め」がS&P500を押し下げたとも指摘されています。このため、株価下落をすべてトランプの戦略に帰すのは過大評価かもしれません。
2025年に再び関税問題が注目された際、投資家はすでに「大統領は強硬姿勢から後退する」と予想しており、株価の反応は以前より限定的でした。中国側の対応強硬化や米国内の景気減速により、TACOトレードは以前よりリスクが高いと専門家は警告しています。これは政権が意図的にV字回復を演出できるほど市場をコントロールできないことを示しています。
政権関係者はTACOトレードを否定しています。Northeastern大学の分析では、ベッセント財務長官がオンショアリングの長期的利益を強調する一方、専門家はその経済効果が不確実で短期的なコストが大きいと指摘しています。市場操作ではなく政治的な目標(国内産業振興や国家安全保障)が主要な動機であり、株価への影響は副次的と見ることもできます。さらに、2026年の選挙では米中関係以外にもインフレや労働市場の状況など多くの争点があり、政権が意図的に市場を暴落させ、あとで回復させるという単純なシナリオは現実的ではありません。
ジンテーゼ(総合):貿易政策は市場に影響するが、単純な陰謀論では説明できない
市場は政治の影響を受けやすく、とりわけ大統領が関税や外交政策を繰り返し変更すれば投資家は様子見姿勢を取ります。2018〜2019年の米中貿易摩擦では、関税発表で株価が急落し、交渉進展や関税延期で回復するというパターンが確かに存在しました。この現象は後に「TACOトレード」と呼ばれ、2025年にも再び話題になりました。投資家心理がこうしたパターンに反応するため、政権が結果的に市場のV字回復を演出したように見えることは否定できません。
しかし、株価の変動は常に複数の要因が絡み合います。貿易摩擦だけでなく、金融政策、世界経済の動向、企業業績などが株価を左右します。また、トランプ政権の関税政策は交渉戦術としての側面が強く、支持者に利益を与えるために市場を意図的に操作したという確たる証拠はありません。ベッセント長官が「最大限の交渉ポジション」を掲げる姿勢や、専門家が指摘するTACOトレードのリスク増大を考慮すると、第二次トランプ政権が2026年選挙前に同様の戦略を再現できるかは不確実です。
要約
2018〜2019年の米中貿易摩擦では、関税発表で株価が急落し、関税延期や交渉進展で回復する「TACOトレード」と呼ばれる現象が観測されました。このパターンは一部の投資家に利益をもたらしましたが、株価下落には金融政策や世界景気悪化も影響していました。2025年にも再び関税を巡る駆け引きがあり、TACO効果が話題になったものの、専門家は市場環境の変化によりリスクが高まっていると指摘しています。第二次トランプ政権が2026年選挙に向けて意図的に市場を暴落させ、V字回復を演出するとの見方は一部で語られるものの、政策決定には多くの要因があり、単純な陰謀論では説明できません。

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