正(テーゼ):ネットワーク効果と規模が生む絶対的優位
- 巨大な処理規模:ビザは2025年度に決済ボリューム16.7兆ドル、支払ボリューム14.2兆ドルを処理し、2575億件の取引を自社ネットワークで処理した。カード枚数は49億枚で、12億のエンドポイントが約1億7500万の加盟店、約1万4500の金融機関を結んでいる。
- 規模の経済と参入障壁:ネットワークを構築・維持するための巨額な固定費、国際的な規制順守や不正検知システムへの投資は、多くの競合が参入することを困難にしている。
- 二社寡占の利益率:マスターカードも2025年3月末で35億枚のカードを発行し、ネットワーク収益は2025年第1四半期だけで73億ドル、営業利益率は57%を超える。両社とも高利益率を維持し、世界決済インフラの中心に君臨している。
反(アンチテーゼ):Fintechの革新と新勢力が揺さぶる「カード帝国」
- 新たな競合軸:Capital One+Discover
2025年5月18日、Capital OneがDiscoverの買収を完了し、米最大のクレジットカード発行会社が誕生した。この統合によりCapital OneはDiscoverの決済ネットワークを取得し、デビットカードをDiscoverネットワークに移行してインターチェンジ上限を回避する計画である。これにより、Visa・Mastercardと競う第3の米国ネットワークが台頭し、手数料や報酬プログラムで一石を投じる可能性がある。 - リアルタイム決済と新技術
100を超える国でリアルタイム決済システムが整備され、70カ国以上が即時決済を採用している。Mastercardは2024年に「クロスボーダー即時決済」のトレンドを挙げ、各国の国内決済網を相互接続することで中央銀行デジタル通貨やデジタル資産と連携する未来を予想している。J.P. Morganもリアルタイム決済が流動性向上やコスト削減に寄与すると指摘し、AIによる不正検知やデータ分析への投資が進む。
こうしたアカウントベース/ブロックチェーン決済の拡大は、カードに依存しない「ネットワーク外」の支払いを増やし、Visa・Mastercardの手数料ビジネスを圧迫する可能性がある。 - 規制・政治リスク
各国の規制当局はインターチェンジ手数料やカード報酬プログラムを監視しており、米国では手数料制限を検討する動きもある。新興国では現金からモバイル決済への直接移行が起きており、クレジットカード文化が根付きにくい。
合(ジンテーゼ):“カード帝国”は変化に適応しつつ中枢インフラを維持
- ネットワーク効果は依然盤石
数十億枚のカードと1億超の加盟店を抱えるビザのネットワークは、利用者と加盟店の相互依存で強化され続ける。カード利用を代替するリアルタイム決済が広がっても、カードブランドが提供する保証・リワード・グローバル受け入れ網に代わる信頼性をすぐに築くのは容易ではない。 - 多様なレールへの「ネットワーク・オブ・ネットワークズ」戦略
ビザは2025年の年次報告で、自らを「ネットワーク・オブ・ネットワークズ」と位置付け、AI・トークン化・デジタルIDの導入で新しい決済レールとも接続する方針を示した。マスターカードもAIエージェント決済やブロックチェーン連携を進めている。
つまり両社はカード外の決済インフラにも参入し、フィンテック企業と提携することで主導権を保とうとしている。 - 長期成長は新興国とデータ価値
新興国ではデビットカードやモバイル決済が先に普及するが、その後所得が上がるにつれてクレジットカードやプレミアムカードへのアップグレード需要が生まれる。VisaやMastercardはデータ分析、リスク管理、広告など付加価値サービスを拡大しており、手数料依存から脱却しつつある。
要約
- ビザは2025年度に総決済額16.7兆ドル、2575億件の取引、49億枚のカード、175万加盟店と1万4500金融機関を繋ぐ巨大ネットワークを有し、マスターカードも35億枚のカードを発行するなど二社寡占が続いている。
- 2025年5月にCapital OneがDiscoverを買収し、米最大のカード発行会社が誕生した。この統合はVisa・Mastercardの支配に挑む新ネットワークを生み、手数料や報酬プログラムの競争を激化させると期待されている。
- 一方、リアルタイム決済やブロックチェーン、中央銀行デジタル通貨などの新技術が急速に普及し、70超の国が即時決済を採用、Mastercardはデジタル化とトークン化の深化を推進。これらはカードに代わる支払い手段を提供し、既存ネットワークの収益構造を揺さぶる。
- それでも、VisaとMastercardは自らを「ネットワーク・オブ・ネットワークズ」と定義し、AIやトークン化を活用して新しいレールにも接続することで競争力を維持しようとしている。新興国の成長や付加価値サービスの拡大もあり、カード帝国は変容しながらも長期的な中枢インフラとして残ると考えられる。

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