世界インフレの二極化:沈静化する新興国、粘着する先進国


正:インフレは徐々に落ち着きつつあり、多くの新興国は抑制に成功しているという見方

  1. 世界的にはインフレ率が下降傾向
    • IMFの2025年10月世界経済見通しによれば、世界のインフレ率は2024年から2025年にかけて低下し続け、国によってバラつきはあるものの、「総体としてインフレ率は落ち着いていく」と予測している。
    • OECDも2025年3月時点で、G20諸国のヘッドラインインフレ率は2025年に3.8%、2026年に3.2%まで下がるとの見通しを示し、先進国・新興国を合わせた年率で「前回予測よりは高いが徐々に低下する」と述べている。
  2. 新興国の多くはインフレ抑制に成功
    • 世界銀行の「Global Economic Prospects」(2025年6月)は、サービス部門の価格上昇や賃金上昇が続くものの、GDP加重で見た世界インフレ率は2025~26年に2.9%と予測し、多くの新興国では需要減退によりインフレ予測が引き下げられたと指摘している。
    • マッキンゼーの2025年10月の分析では、インドの小売インフレ率が2025年9月に1.54%まで低下し、食品価格の下落が新興国のディスインフレを促していると報告している。
  3. 商品価格の落ち着きと供給制約の緩和
    • 世界銀行は、エネルギー価格の下落や商品市況の下落が2025年に続くと予測し、これが世界の総合インフレ率を押し下げる要因になるとしている。
    • 新興国の多くでは、中央銀行が先進国より早く強力な利上げを行ったことでインフレ期待を抑え込みやすかった。ブラジルでは2025年12月時点で消費者インフレが1年以上ぶりの低水準まで下がり、中央銀行は政策金利を据え置いている。

これらの点から、「世界全体ではインフレが減速し、新興国は抑制に成功している」という楽観的な見方が成り立つ。


反:先進国ではインフレが粘着性を持って高止まりし、再燃リスクが残っているという見方

  1. ヘッドライン・コアともに高止まりする先進国
    • 世界銀行は、2025年初頭に先進国のヘッドラインインフレが一時的に上昇し、労働市場の逼迫によりコアインフレも高止まりしていると指摘している。
    • マッキンゼーのレポートでは、米国のCPIは2025年9月までの12か月で3.0%上昇し、ユーロ圏のコアインフレ率も2.3%にとどまるなど、主要先進国で物価上昇が中央銀行目標を上回っていると報告されている。
  2. 政策転換による逆風と期待インフレの上昇
    • 世界銀行は、米中貿易摩擦などの保護貿易政策が世界のサプライチェーンにコスト上昇をもたらし、インフレ期待を再び高めていると警告する。特に主要経済での関税引き上げが短期的な価格押し上げ要因となり、インフレの正常化を遅らせる恐れがある。
    • OECDもサービス価格インフレが依然として高く、いくつかの国では財のインフレが再び上昇し始めているため、インフレ見通しが上方修正されたと指摘している。
  3. 1970年代の再来への懸念と金利政策の難しさ
    • インフレが一時的に沈静化したとの見方が利下げを早め、再び高インフレを招いた1970年代の米国の教訓になぞらえ、現行の利下げ局面にも「早すぎる緩和がインフレ再燃を招くリスク」があると市場参加者は警戒している。
    • 2025年12月10日のロイター記事では、主要先進国のインフレが目標を上回っていることが「世界的な利上げ転換」の原因となり、株式・為替市場のボラティリティを高めていると分析されている。

このように、先進国ではインフレが頑固に高止まりし、金融政策の綱渡りが続いている。「インフレは抑制済み」との見方に対する反論が成り立つ。


合:世界はインフレの二極化と政策ジレンマに直面している

以上の正反両論を踏まえると、現状のインフレ環境は次のように統合的に理解できる。

  1. 先進国と新興国の二極化
    • 先進国: 需要の底堅さ、サービス部門の賃金上昇、保護主義によるコスト増などからインフレが粘着質に続き、米国・日本・欧州の一部では再加速の兆候すらある。
    • 新興国: 政策対応の早さや食品価格の下落によりインフレが大きく低下し、一部では目標を下回る水準に落ち着いている。
  2. 利下げとインフレ抑制のジレンマ
    • 世界のGDP加重でみると2025~26年のインフレ率は平均2.9%と予測され、目標の2%台をやや上回る。景気減速を避けるには利下げが必要だが、早すぎる緩和はインフレ再燃リスクを高める。
    • 新たな関税・供給制約の影響が残る限り、中央銀行は景気刺激とインフレ抑制の両立というジレンマに直面する。
  3. 政策の質と協調が鍵
    • IMFは「政策の信頼性・独立性を維持し、持続可能な財政政策・貿易外交に努めることが世界経済の安定に不可欠」と強調する。これは先進国・新興国を問わず適用される。
    • 新興国では政策フレームワークの改善がインフレ抑制に寄与していると評価されており、先進国も信用を損なわない金融政策が求められる。

総じて「インフレは抑制された」との単純な見方ではなく、国ごとに状況が大きく異なる二極化が進んでおり、政策判断の難易度が増していることが読み取れる。


簡潔な要約

  • 総合的には減速傾向:IMFやOECDによると世界全体のインフレ率は2025年にかけて低下しており、GDP加重では2.9%程度まで下がる見通しだ。
  • 新興国は抑制に成功:食品・エネルギー価格の下落や早期の利上げにより、新興国の多くがインフレ沈静化を実現している。
  • 先進国では粘着性が強い:米国や欧州ではサービス価格と賃金上昇がコアインフレを押し上げ、ヘッドラインインフレは目標を上回ったまま。
  • 政策ジレンマ:早期の利下げは成長下支えとなる一方、1970年代のようにインフレ再燃を招く恐れがあり、中央銀行は慎重な対応を迫られている。
  • 世界は二極化:インフレを抑え込んだ新興国と、高止まりが続く先進国の二極化が進んでおり、世界的なインフレ抑制は道半ばである。

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