① テーゼ(肯定命題)
2026年も米株は堅調だが伸び率は控えめ、との楽観的なシナリオ。
- 市場参加者の平均的な見方では、S&P500は2026年末に約7,269ポイント前後と予想され、2025年12月初旬の水準から約6%の上昇となる。これは以前の予想より上方修正された数字である。
- 業績の見通しは依然堅調で、RBCによれば、2026年のS&P500構成企業の利益は前年比12.8%増と二桁成長が見込まれている。
- 米国経済も底堅く、RBCのチーフエコノミストは2026年のGDP成長率を2.2%と予測し、過去平均に近い。AI関連の設備投資やクラウド投資が利益を押し上げるとの期待も強い。
- JPモルガンなど一部の銀行は更に強気で、S&P500が2026年末に7,500ポイントに達し、約10%の上昇と見る。AIによる「スーパーサイクル」や企業のコスト削減が株価を押し上げると予想している。
② アンチテーゼ(否定命題)
高バリュエーションや金融環境の制約から、低成長や停滞に陥るリスクも無視できない。
- RBCは、2026年のコンセンサス利益成長率が高いとしながらも、現在の先行P/E(21.3倍)は過去10年平均(18.6倍)より高く、バリュエーションは割高と警告している。過去のバブル期と同様、バリュエーションが高い局面ではその後の実質リターンが低迷することが多い。
- AI投資ブームに対しても「イエローシグナル」を掲げ、循環型融資や電力供給制約など懸念材料がある。
- 金利面では、インフレ率が3%台に張り付くと予想されるため、FRBは大幅な利下げが困難になり、短期金利は2026年末に4.55%まで上昇する可能性がある。利下げ余地の制約は株式のバリュエーションに圧力をかける。
- 信用市場もリスクが高い。投資適格社債のスプレッドは0.85%と低く、企業のAI設備投資などに伴う大量発行が収益に悪影響を及ぼす懸念がある。
- また、11月末のロイター調査では、ストラテジストの中央値は7,490ポイントと10%強の上昇にとどまり、JPモルガンの予想に沿うが、そこから先の上値余地は限定的とみる意見もある。
③ ジンテーゼ(総合命題)
2026年はプラス成長の可能性が高いが、長期的な平均には届かない中庸な局面。
- 予想される7,269〜7,500ポイントのレンジは、過去の平均年率(約10%)を下回るものの、それでもプラス成長である。
- AI投資による利益成長や米国経済の堅調さは、株価を下支えする要因として無視できない。一方で、バリュエーションの高さ、インフレ持続、金融政策の制約、信用市場の不透明感が下押し要因となる。
- このため、「強気」と「弱気」の両面がせめぎ合う均衡状態にあり、株価は緩やかに上昇しながらも大きな飛躍は望みにくい。RBCも2026年の米国株投資を「マーケット・ウェイト」と位置づけ、配当成長株やヘルスケアなど守りの銘柄を重視する姿勢を示している。
- 投資家にとっては、過度な期待を避け、分散とリスク管理を徹底することが重要である。AIブームへの過剰集中は避け、金利上昇に備えたポートフォリオ調整が求められる。
■要約
- 2026年のS&P500について、ウォール街の平均的な予想は年末に7,269〜7,500ポイントで、現在値から6〜10%程度の上昇を見込んでいる。
- RBCは利益の2桁成長を期待しつつも、先行P/Eが21倍超と割高である点や、AI投資ブームに警戒を示している。
- インフレが3%前後で続く場合、FRBの利下げ余地は限られ、金利は2026年末に4.55%まで上昇する可能性がある。信用市場も高値圏にあり、AI関連企業の資金調達が負担になる恐れがある。
- 以上から、2026年の米国株式市場は「控えめなプラス成長」と「割高なバリュエーションによるリスク」が共存する状態と考えられる。期待値を下げ、分散投資と守りの銘柄を重視する姿勢が推奨される。

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