FOMCでは事務局の「書記」が定例会議の議題を作成し、議長と相談したうえでメンバーに送付する。この議題には、ニューヨーク連銀が担当する公開市場操作の報告とそれに対する委員会の追認、経済・金融情勢に関するスタッフの説明、政策代替案の提示と委員の討議、その他必要な案件が含まれる。定例会議の流れはエリザベス・デューク元理事が「Come with Me to the FOMC」で詳述している。議長が会議を開会すると、まずSOMA(公開市場操作用勘定)の運用担当者が前回会合からの市場動向を報告し、その後に特別テーマや物価測定などの講義、内外経済の見通しに関する理事会研究部門の説明が続く。その後「経済ゴーラウンド」と呼ばれる順番制の意見交換で各参加者が経済情勢を述べ、議長がまとめてから政策討議に入る。
議長の主導と事務局・スタッフの役割(テーゼ)
議長(FRB議長)はFOMCの議長でもあり、事務局(書記)や理事会の700人以上のスタッフを統率する「実働責任者」である。議長は会議の議題を決め、メンバーの発言順序を定め、自身の見解を提示する時期も選ぶため、議題設定を通じて重要な論点を浮上させたり沈めたりできる。FOMC参加者に配布される「ティールブック」では、理事会スタッフが経済見通しと政策代替案(通常は3案)を用意し、中央案の「代替案B」は議長の好む政策であると冗談混じりに語られる。議長は討議が終わると政策声明案を起草し、委員会が賛否を表明する。このプロセスのため、議長は歴代ほとんど負け票を喫しておらず「議長の発言は市場にとってFOMC声明より重要」という研究もある。
合議制と制度的チェック(アンチテーゼ)
他方で議長は12票のうち1票しか持たず、他の理事や地区連銀総裁の支持がなければ政策を決定できない。トゥルイスト銀行の経済コメントも、議長は演説や議題設定を通じて方針に影響を与えられるが、単独で利下げを強行することはできず「委員会はコンセンサスを重んじる」と指摘する。実際、FOMCは政策代替案を幅広く討議し、諸地区の経済情勢や参加者の経験に基づく意見を聞き、議長は討議の最後に自身の意見を述べることが多い。先述のティールブックでも、代替案A(ハト派)と代替案C(タカ派)が議長案を挟みこむ形で提示され、意見の幅を示す。米国のメディアも、議長が議題を設定できる一方で合意形成が重要であり、近年の会合では意見の分裂が表面化して「リーダーシップ交代が控える中でコンセンサス形成が難しい」と報じている。
議長の影響力をめぐる弁証法的整理(総合)
FOMCの議題決定は、事務局による定型的な議題構成と議長によるアジェンダ設定の力、そして合議制という制度的制約との相互作用の中で行われる。議長はスタッフが用意する経済見通しや政策選択肢を通じて議論の枠組みを決め、会議の進行と最終声明案の草案作成を主導する。このため議長の考えはFOMCの討議全体に強い影響を及ぼし、市場は議長の演説や証言を注視する。しかし、議長は各地区連銀総裁や理事の意見を聞き、幅広い代替案を検討しながらコンセンサスを構築する役割も担う。議長が単独で政策を決めることはできず、意見が割れた場合には妥協案を提示し、多数決ではなく全員参加型の合意形成を重視する。このように、FOMCの議題設定は中央集権的な指導力と制度的なチェックとの弁証法的な均衡の上に成り立っており、議長の影響力は大きいものの絶対ではない。
要約
- FOMCの議題は書記が議長と相談して作成し、公開市場操作報告や経済状況説明、政策討議などが並ぶ。
- 会議はSOMA報告、特別テーマ、経済情勢説明、経済ゴーラウンド、政策ゴーラウンドという順序で進み、議長は意見をまとめてから自身の見解を述べる。
- 議長は議題の構成や発言順序を決め、最終的な政策案を起草するため、議題設定を通じて大きな影響力を持つ。
- 理事会スタッフはティールブックで3つの政策代替案を提示し、中央案(代替案B)は議長の好む政策とされる。
- しかしFOMCは合議制であり、議長は12票のうち1票しか持たず、他のメンバーの合意を得る必要がある。
- 議長の役割はリーダーシップを発揮しながらも反対意見を聞き、コンセンサスを築くことである。

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