AIが支える強気相場と歴史が警告する調整局面


序論:テーマの整理

  • 米S&P500は2023・2024・2025年と3年連続で二桁の上昇が続き、AI関連株が大きく牽引しています。過去76年でこうした連騰は数回しかなく、長期サイクルからは「踊り場」を警戒する意見もあります。
  • 一方、米投資銀行や資産運用会社は2026年以降も企業利益の拡大とAI投資の広がりを背景に株式上昇が続くとする強気予測を出しています。
  • ここでは「強気派の主張」と「慎重派の主張」を整理し、相互に照らし合わせながら総合的な立場を探ります。

テーゼ:AIブームと堅固なファンダメンタルズが株高を支える

  1. テクノロジー/AIセクターの収益力
    • プロシェアーズの分析では、現在のテクノロジーセクターは1999年(ドットコム・バブル崩壊前)よりも収益性が高く、PERも低いと指摘しています。大型テック株は市場平均の約3倍のROAを持ち、バブル時ほどの過剰な評価ではないとされています。
    • AIへの投資が企業の業務効率やイノベーションを促進し、利益成長を押し上げていることは多くのアナリストが認めています。
  2. マクロ環境の追い風と企業利益の拡大
    • 2025年末までに米GDPは加速し、2025年第2四半期には年率3.8%、第3四半期も3.9%と堅調に推移しています。S&P500の利益成長率は2026年に14.2%に拡大するとの予想があり、大手銀行も「企業利益が株価上昇を牽引する」としています。
    • JPモルガンはグローバル株式に対し2026年も二桁成長を予測しつつ、AI投資拡大が利益成長と設備投資を支えると見ています。
  3. 金融政策・投資家心理
    • 2025年に連邦準備制度は利下げを開始しており、低金利環境は企業の借り入れを容易にし、消費者の購買力を高めることで株式に追い風になると指摘されています。
    • 大手銀行の年次見通しでは「感情的な弱気心理に反し、株式市場には上昇余地がある」とし、複数の銀行が2026年のS&P500目標を7,100〜8,000ポイントとしています。

アンチテーゼ:歴史的な連騰と高バリュエーションが示す調整リスク

  1. 連続二桁上昇後の調整パターン
    • Nasdaqの記事によると、S&P500は今世紀で初めて3年連続二桁上昇を記録しており、過去153年でこの現象は2000年のドットコム・バブルを含む二度しかないと指摘します。
    • Shiller P/E(CAPE)倍率は39倍前後に達し、ドットコム・バブル時以来の高水準です。高い評価水準のピーク後はS&P500が下落に転じる傾向があり、著者は「歴史的に見て2026年は下落しやすい」と述べています。
  2. 景気鈍化・金融政策転換のリスク
    • スティフェルのストラテジストは、AI投資と投資家の熱狂が2025年の上昇を過大評価させたとして、数カ月以内にS&P500が6,350ポイント程度へ5%調整すると予想しています。
    • また、FRBの「積極的なサポートの終焉」により市場が調整局面に入りやすく、2026年に景気が減速してからの利下げは株式に強気な影響を与えにくいと警告しています。
  3. 景気後退のリスクと高インフレ
    • JPモルガンは2026年に米国および世界で約35%の景気後退確率を見込んでおり、インフレ率が3%前後で粘着的に残ると予測しています。弱い労働需要と消費者信頼感の低迷が景気の下押し要因となり得ます。
    • 消費者心理や労働市場の軟化は株式市場に遅れて影響し、過去のドットコム崩壊時のように企業利益が急減するリスクもあることが指摘されています。

ジンテーゼ:両者を踏まえた総合的な見解

弁証法的にテーゼとアンチテーゼを統合すると、以下のような総合的理解が導かれます。

  1. AIブームは実体を伴うが期待が先行している可能性
    • 技術革新による収益増加は実際に企業業績に表れており、以前のドットコム期ほど評価倍率は極端ではありません。しかし、高いCAPE倍率が示す通り、期待先行で評価が上振れしている面は無視できません。
    • よってAI関連株に集中し過ぎず、幅広い銘柄への分散や利益の実現性を見極めることが重要です。2026年は“AIの勝者と敗者”の二極化が進み、K字型の市場となる可能性をJPモルガンも指摘しています。
  2. マクロ経済は減速しつつも崩壊は避けられる可能性
    • 2025年の米経済はソフトランディングを遂げつつあり、設備稼働率は過去の危機時よりも低水準で「中立的」な状態にあります。これにより、景気後退が起こるとしても深刻なものではないとの見方があります。
    • しかし、JPモルガンは景気後退確率を35%と見積もっており、StifelもFRBの政策やインフレ動向によって調整が起こると警告しています。適度なリスク管理が求められます。
  3. 投資戦略への示唆
    • 連続的な高騰後に調整が起こる可能性が高いことは歴史が示していますが、調整は長期投資家にとって買い場でもあります。
    • 2026年末にS&P500が5,500~8,000までの幅広いレンジとなる予想が乱立していることは、将来の不確実性の高さを物語っています。ドル円や金利など他資産の動きも考慮し、分散投資とリスク許容度に応じたポートフォリオ調整が必要です。

要約

  • 強気派の論拠: AI投資が実体経済と企業利益を押し上げており、技術セクターの収益力は1999年より優れている。GDPや企業利益は2026年も拡大が予想され、JPモルガンや複数の大手銀行はS&P500の二桁成長を見込んでいます。低金利環境と政策支援も追い風とされています。
  • 慎重派の論拠: S&P500は3年連続二桁上昇という稀な局面にあり、Shiller CAPE倍率はドットコム期並みに高い。過去にはこうした局面の翌年に調整が起こっており、Stifelは高バリュエーションとFRBの政策転換を理由に数%の下落を予想。JPモルガンも35%の景気後退確率を指摘しています。
  • 総合的な見解: AIブームは実体を伴っているものの、市場の期待が先行している面があり、2026年は高値波乱や銘柄間の明暗が分かれる可能性が高い。景気後退リスクやインフレの粘着性も無視できない一方で、企業利益や政策支援が底支えとなる可能性もある。したがって、長期視点での分散投資とリスク管理を重視し、短期的な調整にも対応できる柔軟な戦略が求められると言える。

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