中国外貨準備の分散化戦略:金8%、米国債19%の意味

公式準備資産の内訳

中国の国家外汇管理局(SAFE)が公表する「公式準備資産」統計では、外貨準備残高を「外貨準備」「基金組織(IMF)準備ポジション」「特別引出権(SDR)」「金」「その他の準備資産」に区分している。2025年11月のデータを見ると、外貨準備は3兆3,463.72億ドル、IMF準備ポジションは147.33億ドル、SDR保有は879.47億ドル、金は3,106.47億ドルで、その他資産は約89億ドルだった。合計では3兆7,236.51億ドル(37236.51×100万ドル)の外貨準備がある。日本円換算では約557兆円(1ドル=150円前後)で、世界最大級の規模である。

通貨構成と公開情報

準備資産の通貨別構成は機密扱いだが、中国は2015年の報告でドル建て資産の割合が2005年の79%から58%に減少したことを明らかにした。ユーロや日本円、英ポンドなどが残りの多くを占めるとみられる。SAFEの外貨準備に関する最新の報告(2021年年次報告等)でもドル資産比率は58%台に維持されている。

金(ゴールド)の比率と保有状況

  • 保有量:SAFEの公式統計によると、2025年1月の金準備額は2,065.34億ドルであったが、毎月増え続け、11月には3,106.47億ドルに達した。重量ベースでは約74.09百万トロイオンス(2,305トン)で、前月より0.9トン増加したと世界金協議会が報告している。
  • 外貨準備に占める比率:計算すると、2025年11月時点の金の価値は外貨準備全体の約 8.24% を占める。世界金協議会の分析では、2024年12月時点の5.5%から2025年11月には8.3%まで上昇したとされる。IDNFinancialsの報道では9月末時点で金は7.7%に達しており、11か月連続で金を買い増した結果だと述べている。
  • 背景:金購入の増加は、米国によるロシアの外貨凍結や米中対立の激化を踏まえ、米ドル資産への依存度を下げる戦略と解釈される。金は流動性や安全性が高く、通貨覇権リスクへのヘッジ手段とされる。

米国債の比率と保有状況

  • 保有残高の推移:米国財務省の「主要外国保有者」表によると、中国本土が保有する米国債は2025年1月の760.8億ドルから2月の784.3億ドルに増えたものの、その後は減少傾向となり、7月には696.9億ドル、9月には700.5億ドルへ落ち込んだ。これは2008年10月以来の低水準であるとロイターが指摘している。
  • 外貨準備に占める比率:SAFEの総準備高と比較すると、米国債の比率は2025年初めには約 21.1% に達していたが、9月には 18.9% まで低下した(計算値)。外貨準備全体に占める米国債比率の低下は2017年以降の継続的なトレンドであり、2022年1月から2024年12月にかけて中国は公式米国債保有額を27%以上減らした。
  • 要因:米国債利回りの低下や米中緊張の高まりに加え、米国による対外制裁のリスクが中国当局を米国債依存から分散投資へと向かわせた。ロイターによると、中国は人民元防衛のためにも米国債を売却している。

分散投資とその他の資産

  • 米国債以外の米ドル資産:SAFEは米国政府機関債(エージェンシー債)への投資を増やしている。フィナンシャル・タイムズは、2018〜2020年に中国の米政府機関債保有が60%増加し、約2,610億ドルに達したと報じている。これらの債券は米国債と同等の信用力を持ち、やや高い利回りが期待できる。
  • 民間資産・代替資産への投資:SAFEはニューヨークのRosewood Investment Corp.を通じてプライベートエクイティやインフラに投資し、香港やロンドンなど海外拠点の子会社を活用して国際債券や株式、代替資産を運用している。これにより、低利回りの米国債から投資収益率を高める努力が続いている。
  • その他の通貨・地域: SAFEは米ドル以外の資産を増やす目的で、米国以外の市場(特に香港やアジア)の債券や株式に資金を振り向け始めており、同時に保有期間(デュレーション)を短縮して市場変動リスクを抑えている。

全体の要約

中国の外貨準備は2025年11月時点で約3兆7,236億ドルに達し、外貨準備の6割弱をドル資産が占めている。準備資産の構成は外貨準備、IMF準備ポジション、SDR、金、その他の資産であり、うち外貨準備が最も大きい。
2024年末以降、中国は金を継続的に買い増し、金の保有額は2025年11月に3,106億ドル、全準備の約8.3%に達した。9月時点では7.7%との報道もあり、金が外貨準備の中で存在感を急速に高めている。
一方、米国債保有は減少基調で、2025年9月時点の保有残高は700.5億ドルで外貨準備に占める比率は約19%まで低下した。米国債の比率低下に伴い、中国は米政府機関債やプライベートエクイティなどへ投資を拡大し、香港や欧州に資産運用を分散している。このように、中国の外貨準備ポートフォリオは従来の米国債偏重から多様な資産への分散へと明確にシフトしている。

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