テーゼ:崩壊の警告
この主張のテーゼは、「日本経済が巨額の債務と金利上昇により近く崩壊し、世界市場を巻き込む」という警鐘です。発信者は日本が10兆ドルを超える債務を抱えており、すべての国債利回りが過去最高に達した結果、来週には5000億ドル規模の米国株式を売却せざるを得ず、円キャリートレードの解消や強制売却が連鎖してグローバル金融システムに空洞を生じさせると主張しています。また、金利がほぼゼロであったからこそ維持されてきた経済が、金利上昇によって雪だるま式に崩壊するとしています。
アンチテーゼ:事実と反論
まず、公的債務の規模は事実ですが、その多くは国内で保有されています。2025年3月末時点の日本の国債等残高は1324兆円(約9〜10兆ドル)、GDP比234.9%で、国内保有率は88.1%に達し、最大の保有者は日本銀行(46.3%)や国内の保険会社・銀行です。したがって対外債務危機とは構造が異なります。
国債利回りについては、2025年末時点で10年債利回りが2.1%に達し17年ぶりの高水準となったことは事実ですが、バブル期など過去の水準に比べれば依然低く、「過去最高」ではありません。また政府は金利上昇を想定した予算を計上しており、2026年度予算では想定金利を3.0%に引き上げ、利払い・償還費を31.3兆円に増額しました。これは金利上昇に備えた計画的な措置であり、「全てが制御不能」という状況ではありません。
さらに、主張にある「米国株を5000億ドル売却する」根拠は見当たりません。日本銀行が保有するのは主に国内株式やJ-REITに連動するETFであり、2025年9月に発表された売却方針では年間約6200億円(約42億米ドル)のペースで売却する計画で、完了まで100年以上かかるとされています。2026年1月の報道でも、ETFと不動産投資信託の売却を翌週から開始するが、計画通り進めれば1世紀以上要する見通しで、市場への影響を避けるため徐々に実施する方針です。即座に数百億ドル規模の米国株を放出するという事実は確認できません。
ジンテーゼ:バランスの取れた見通し
日本の高い公的債務残高と金利上昇は、財政負担や金融市場にリスクをもたらすことは確かです。政府は歳出拡大と社会保障費増大で財政赤字を抱え、金利上昇で利払い費が膨らめば政策余地が狭まります。また、円キャリートレードの巻き戻しが急激に起きれば、資金の逆流やリスク資産の調整が発生する可能性も否定できません。
しかし、債務の大半を国内で消化していること、政府が金利上昇を想定した予算を組んでいること、日銀が金融緩和からの正常化を段階的に進めていることなどから、直ちに「市場崩壊」と断定するのは適切ではありません。むしろ、今後は利上げペースや円相場、世界景気の動向などを注視しつつ、財政健全化や構造改革を進める必要があります。情報の出どころが不明瞭な極端な予測には慎重に対応し、公式な統計や信頼性の高い報道に基づき判断することが重要です。
要約
- 日本の公的債務は1324兆円(GDP比約235%)と巨額だが、大半が国内保有である。
- 10年国債利回りは2025年末に2.1%と17年ぶりの水準まで上昇したものの、歴史的な最高値ではない。
- 政府は金利上昇を想定し、2026年度予算で金利3.0%を前提に利払い費を31.3兆円に増額した。
- 日銀が保有するETFの売却計画は年6200億円程度で、完了まで100年以上かける予定であり、米国株を一気に売却する計画は確認できない。
- 従って、近い将来の日本経済崩壊や世界市場の連鎖破綻を断定するのは根拠に乏しい。バランスの取れた視点で政策や市場動向を見守るべきである。

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