日本の倒産法には、企業が債務超過や支払不能の危機に陥ったときでも事業を継続しながら再建するための手続きが存在します。代表的なものが民事再生法による 再生手続 と会社更生法による 更生手続 であり、どちらも裁判所に対する申し立てから始まりますが、目的や対象、申し立ての要件、手続の進め方には大きな違いがあります。以下では弁証法的観点(テーゼ・アンチテーゼ・ジンテーゼ)から両手続の開始申立ての違いを論じます。
テーゼ(共通点)
まず両手続に共通する特徴を確認します。
- 目的は企業の存続 – 再生手続も更生手続も倒産手続の中では「再建型」に分類され、会社の事業を存続しながら債務整理と再建を図ることを目的としています。
- 裁判所による監督下で行われる – どちらも地方裁判所への申立てによって開始され、裁判所が選任する監督委員や更生管財人の監督下で債権者調査や再建計画の策定が進みます。
- 開始要件は「破産原因が生じるおそれ」などの将来的な危機 – 再生手続は支払不能や債務超過が生じる「おそれ」がある場合や、弁済期にある債務の支払いが事業継続に支障を生じさせるおそれがある場合に申し立てができます。更生手続も同様に、支払不能または債務超過が生じるおそれや弁済期の債務支払いによる事業継続支障のおそれがある場合に開始決定がなされます。破産に至る前の段階で会社を救済することが目的とされている点が共通しています。
- 予納金等の費用が必要 – 再生手続でも更生手続でも申し立ての際に裁判所へ予納金を納める必要があり、費用の未納は開始決定の棄却理由になります。
このように、両手続の申立ては事業を継続させながら債務整理を図る点や、破産の危機を察知して早期に申し立てる点、裁判所が関与する手続である点などで共通しています。
アンチテーゼ(相違点)
次に、両手続の申立てにおける相違点を論じます。
1. 対象となる企業・申立権者の違い
- 対象者の範囲 – 再生手続は法人だけでなく個人や学校法人・医療法人などの広い主体が利用できるのに対し、更生手続は会社法上の株式会社に限定されます。そのため合同会社や合資会社は更生手続を利用できず、再建型手続を選択する場合は民事再生を利用することになります。
- 申立権者の範囲 – 再生手続の申し立ては債務者本人か債権者が行うことができます。更生手続では申し立て権者として①対象となる株式会社、②資本金の10分の1以上の債権を持つ債権者、③総株主の議決権の10分の1以上を有する株主のいずれかに限定されます。つまり、更生手続では一定の規模以上の利害関係者に申し立て権が限定されています。
2. 管理処分権の扱いと経営陣の地位
- 経営権を維持できるか – 再生手続は DIP型手続 と呼ばれ、原則として再生債務者(経営陣)が財産の管理・処分権を保持したまま手続きを進めます。監督委員が選任されるものの、経営者が主体的に再建計画を作成・実行できるのが特徴です。
- 更生管財人の選任 – 更生手続では申し立てが認められると裁判所は更生管財人を選任し、経営権や財産の管理処分権が管財人に移転します。旧経営陣は退任するのが原則であり、経営陣の交代を前提とした厳格な手続です。
3. 担保権・株主権への影響
- 担保権の扱い – 再生手続では担保権は「別除権」として原則自由に行使できますが、担保権の実行を中止する命令や消滅許可が出る場合もあります。一方、更生手続では担保権の行使が原則として禁止され、更生計画の枠内で処理されます。つまり、更生手続では債権者の担保権が制限され、計画に従った公正な分配が図られます。
- 株主権の扱い – 再生手続では株主の権利に直接の制限はありませんが、更生手続では減資や株式の無価値化により株主の権利が消滅することが多く、株主にとって更生手続の申し立ては厳しい結果をもたらします。
4. 申し立てから開始決定までの期間と費用
- 手続期間 – 再生手続では申し立てから開始決定までおおよそ6か月程度、計画認可まで2〜3か月と比較的短期間で進むのに対し、更生手続は開始決定まで1年以上かかり、認可まで最低でも3〜6か月以上を要することがあります。多くの債権者や株主との調整が必要なため、更生手続は長期化しやすいのです。
- 予納金と申し立て費用 – 再生手続の予納金は最低200万円程度からで、負債額に応じて数百万円程度です。更生手続の予納金は規模によって数千万円から数億円と高額であり、申し立て手数料や弁護士費用を合わせると中小企業には負担が大きくなります。高額な費用は更生手続が大企業向けと言われる要因の一つです。
ジンテーゼ(総合的評価)
選択肢としての補完関係
再生手続開始の申し立てと更生手続開始の申し立ては、ともに破産を回避して事業再建を目指す法的手段です。共通点として、いずれも破産原因が生じる前段階で申し立てが可能で、裁判所の監督下で債務整理と再建計画の策定を行います。しかし、民事再生法による再生手続 は、経営者が主体的に再建を主導できるよう配慮された柔軟な制度であり、対象となる企業も個人や中小企業を含みます。申立ての要件も破産手続開始原因の「おそれ」で足りるため利用しやすい手続です。これに対して 会社更生法による更生手続 は、債権者や株主が多数にのぼる大企業の再建を想定した厳格な制度で、管財人による管理と株主権の制限を前提としています。申立権者も制限され、予納金等の費用が高額であることから実務上は大企業向けの手続となっています。
使い分けのポイント
- 企業規模と利害関係者の数 – 利害関係者が比較的少なく経営陣の交代を避けたい場合は再生手続を選びやすいのに対し、利害関係者が多く旧経営陣が退任することにより信頼性を高める必要がある場合は更生手続が適しています。
- 資金調達と株主の意向 – 再生手続では既存株主の権利が維持されやすく株主からの支援が得やすい一方、更生手続では株主権が大きく制限されるため、新たな出資者やスポンサーの介入が前提となります。
- 時間と費用 – 緊急に資金繰りを整える必要がある中小企業にとっては、費用が比較的低く期間の短い再生手続が現実的です。大企業が長期的な再建を目指す場合は、更生手続が選択されることが多いです。
まとめ(要約)
再建型倒産手続には民事再生法による再生手続と会社更生法による更生手続があり、どちらも裁判所への申し立てから始まります。再生手続は法人・個人を問わず利用でき、経営者が主導権を保持したまま再建計画を策定する柔軟な手続です。開始申立ては破産原因が生じるおそれや弁済期債務の支払いによって事業継続に支障が出る可能性があれば認められ、申立権者も債務者や債権者に広く認められています。これに対して更生手続は株式会社に限定され、申立権者も債権者・株主の一定割合以上に限られます。開始決定がなされると管財人が選任され、経営権や財産管理権が移るため旧経営陣は退任するのが原則です。また担保権の行使や株主権は大きく制限され、費用も高額で手続期間が長いという特徴があります。したがって、企業の規模や利害関係者の数、資金調達の必要性に応じて両手続を使い分けることが求められます。

コメント