はじめに
- 教育資金の生前贈与には2つの制度があります。1つは祖父母や親が30歳未満の子・孫に教育資金を信託銀行等を通じて一括贈与すると、1人につき上限1,500万円(学校外利用は500万円)まで贈与税が非課税となる 「教育資金贈与の特例」。もう1つは60歳以上の父母や祖父母が18歳以上の子・孫に財産を贈る際、累計2,500万円まで贈与税がかからない 「相続時精算課税制度」。両制度を併用すれば最大約4,000万円まで非課税で資金を移せるため、「教育資金2,500万円生前贈与」と呼ばれることもあります。
制度の概要
- 教育資金贈与の特例は、受贈者の前年所得1,000万円以下・30歳未満といった要件を満たした場合に適用でき、支出時には領収書を金融機関に提出しなければならず、30歳になって残額があると課税されます。制度は2026年3月31日に新規拠出終了予定です。
- 相続時精算課税制度では、贈与額が2,500万円を超える部分には一律20%の贈与税が課され、贈与財産は将来の相続税の計算に加算されます。2024年から年110万円の基礎控除が新設され、基礎控除内の贈与は申告不要となり、利用しやすくなりました。
利用状況の実態
- 信託協会の統計によると、教育資金贈与信託の契約数は制度開始後増え続け、2022年9月末の累計契約数は約25万5,450件、信託財産設定額は約1兆9,155億円に達しています。
- 利用者の拠出額は平均600~700万円ほどで、1,500万円の上限まで拠出するケースは少数です。塾・予備校費や大学・高等学校の学費など学校外支出が多いという調査結果もあります。
- 利用者の声としては、教育費の家計負担が軽減され進学機会が広がったとの評価がある一方、領収書の提出や残額の相続課税など事務負担が煩雑で使い切れないことへの懸念も多く挙げられています。
- 相続時精算課税制度の利用者は2024年分の贈与税申告で約8万人と前年比大幅増ですが、年間110万円の非課税枠を使う暦年課税利用者40万人に比べると依然少数です。申告納税額は暦年課税3,274億円に対し、相続時精算課税制度は661億円にとどまります。
制度の評価(弁証法的考察)
正(賛成論)
- 教育費は国公立でも子ども1人あたり1,000万円、公私立や医学部では3,000万円超とされるため、祖父母の資産を教育目的に活用できる制度は家計負担軽減や進学機会の確保に資する。
- 1,800兆円以上とされる高齢世代の金融資産を若年世代へ移転し、教育投資や消費に回すことは経済活性化策としても期待される。
- 2024年改正により年間110万円の基礎控除が追加され、110万円以下の贈与なら申告不要となるなど手続きの柔軟性が向上し、領収書のデジタル提出など事務負担も軽減されつつある。
反(反対論)
- 平均拠出額が600万~700万円であり、上限の1,500万円を活用できるのは一部の富裕層に限られるため、利用できる家庭とそうでない家庭との教育格差が広がる懸念がある。
- 教育資金贈与は領収書の保管・提出が必要で資金管理が煩雑であり、相続時精算課税制度は一度選択すると暦年課税に戻れないなど制度が複雑で利用拡大の障壁になっている。
- 教育資金贈与信託の累計契約件数は約25万件と高齢者世代の総数に比べてわずかで、相続時精算課税制度の利用者8万人も暦年課税利用者に比べて規模が小さいため、国全体の教育費負担や少子化対策への効果は限定的との指摘がある。
合(統合的視点)
- 両制度は教育機会の拡大と資産移転促進に意義がある半面、恩恵が特定層に偏りやすいという課題も抱える。今後は ①手続きの簡素化(領収書提出の簡便化やオンライン申請の普及)と情報周知により利用ハードルを下げ、 ②教育費支援の裾野拡大(給付型奨学金や一般世帯向け支援の拡充)により格差を是正する、 ③制度の統廃合と再編 によって教育費・住宅取得費・結婚・子育てなどの特例を整理・集約し、分かりやすい仕組みに再設計することが望まれる。
まとめ
- 「教育資金2,500万円生前贈与」とは、1,500万円まで非課税の教育資金贈与特例と2,500万円までの相続時精算課税制度を併用することで、多額の資金を子や孫へ非課税で移転できる仕組みを指す。
- 教育資金贈与信託の利用は増加傾向にあるものの、相続時精算課税制度利用者はまだ少数で、富裕層優遇や手続きの複雑さ、制度終了への不安など課題も多い。
- 制度の長所を活かしつつ格差拡大を防ぐためには、手続きの簡素化と教育費支援の普遍化、制度の統廃合と長期的な再設計が必要であり、2026年3月末の教育資金贈与特例終了後も柔軟に教育資金を支援できる仕組みの整備が求められています。

コメント