カナダや米国の金鉱会社は、電力網に乏しい遠隔地での露天・坑内採掘や鉱石処理に大量のエネルギーを要し、直接的なエネルギー支出の約半分が「油」関連で占められています。大形トラックや発電機は軽油や燃料油で動き、発破用の爆薬にも燃料油が含まれるためです。これらの燃料は精製済みの石油製品であり、原油自体をそのまま消費しているわけではありませんが、カナダや米国の金鉱業者が使用する燃料の由来を辿ると「軽質」と「重質」の両方の供給に依存していることが分かります。米国はシェール革命により軽質スイート原油を大量に産出しますが、国内の製油所はかつての投資により重質サワー原油を処理する設備が多いため、カナダやメキシコから重質原油を大量に輸入し、国内で余剰となった軽質原油を輸出しています。このため軽油や燃料油の製造にはカナダのオイルサンド由来の重質原油やメキシコ湾岸の重質サワー原油が使われることが多く、一方で内陸部の小規模製油所ではシェール由来の軽質原油も利用されています。カナダでもビチューメンをアップグレードした合成原油から軽油を生産しており、一部の鉱山では発電用に残油系の重質燃料油を燃やすこともあります。
こうした原油供給構造に対し、2026年初頭の米国・イスラエルによるイラン攻撃は原油市場に対立軸をもたらしました。攻撃後、ホルムズ海峡を航行するタンカーへの警告から中東産原油と石油製品の輸送が停止し、世界の供給の2割が通過する海峡の閉鎖リスクが意識されました。このためブレント原油は週末の店頭取引で1バレル80ドル前後に急騰し、アナリストは海峡閉鎖が長期化すれば100ドル超もあり得ると予想しました。米国産の軽質スイート原油WTIも70ドル台に上昇し、中東産重質油に代わる供給として北米産の需要が強まっています。OPECプラスは20万バレル程度の増産を決めましたが、海峡の通行停止が8〜10百万バレル/日の供給喪失につながるとの試算もあり、供給不安は払拭されていません。
この矛盾を弁証法的に整理すると、テーゼは金鉱業のエネルギー構造です。彼らは重質原油由来の燃料油と軽質原油由来の軽油という二種類の製品に依存しており、どちらか一方だけでは成り立ちません。アンチテーゼはイラン攻撃による地政学リスクです。中東の重質サワー原油供給の途絶は世界の価格を押し上げ、軽質・重質の価格差も変動します。重質原油が不足すれば重油価格は急騰し、残渣燃料に頼る発電コストが上昇します。一方で軽質原油が地政学リスクから逃れられるわけではなく、WTIも上昇するため軽油や各種消耗品のコストも上昇します。総合としては、金鉱会社は原油市場の二重構造と地政学リスクという二つの要因に挟まれており、どの種類の原油に依存しても価格高騰の影響から逃れられません。この状況は生産コストの上昇や利益率の低下をもたらし、燃料消費量の削減や再生可能エネルギー導入、燃料ヘッジの強化など、長期的なエネルギー戦略の重要性を浮き彫りにしています。

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