テーゼ:利上げは金価格の抑制要因
金は利息を生まないため、名目金利が上昇すると投資家は利息が得られる金融商品へ資金を移しやすくなり、金にとって逆風となると考えられています。例えば1980年初頭、米国のポール・ボルカーFRB議長はフェデラルファンド金利を約20%まで引き上げ、インフレとドルへの不信に歯止めをかけました。その結果、1979年から1980年にかけて約1年間で3倍以上に急騰した金相場は、買いが一巡すると急落し、その後20年以上続く下落トレンドに入ったと分析されています。この例は、高水準の実質金利が金高騰を沈静化させた典型といえます。
アンチテーゼ:利上げ局面でも金が高騰する条件
しかし、利上げ=金売りという関係が常に成り立つわけではありません。金利上昇がインフレ抑制ではなく、物価高騰への対応や実質金利のマイナスを反映する場合、金利上昇はむしろインフレ懸念の強まりとして解釈され、金は買われることがあります。三菱マテリアルのコラムでは、金利と金の逆相関は「従来の市況の法則」だが、最近は当てはまらないケースが増えていると指摘します。金融当局が利上げに踏み切るのはインフレ予防の意味合いが強く、インフレヘッジとして金への投資需要が増えるため、金利上昇が買い材料となる場合もあると述べています。特に1970年代後半には、名目金利は二桁でしたが物価がそれ以上に上昇し実質金利がマイナスになった局面があり、金価格は大きく上昇しました。実質金利が重要な鍵であり、名目利上げでもインフレ率を上回らなければ金価格の抑制にはつながりにくいことがわかります。
ジンテーゼ:現在の環境での複雑な関係
歴史的なテーゼとアンチテーゼを統合すると、金価格と利上げの関係は単純な逆相関ではなく、実質金利や通貨への信認、地政学リスクなど複数の要因が絡み合った結果として理解すべきです。2020年代に入ってからは、実質金利が高水準でも金が強含む例が増えています。ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズのレポートによると、近年は中国の投資需要や新興国中央銀行の金購入が牽引役となり、2025年3月には極めて高い金利環境にもかかわらず金価格が1オンス3,000ドルを超え、金の実質利回りへの感応度が低下したと指摘しています。同報告は、金と実質金利の関係がこの10年で複雑化し、通貨価値の低下に対するヘッジや地政学リスクへの備えとして金を保有する傾向が強まっていると述べています。
さらに、英国の金取引サイトが2025年のデータを分析したところ、10年物TIPSの実質利回りが1.97%と2007年以来の高水準にあるにもかかわらず、金は年初来65%以上上昇し、1979年以来最大の上昇率となったと報じています。同記事は、ロシアのウクライナ侵攻以降、金価格と米国TIPS利回りの相関がほぼゼロになっており、地政学リスクや通貨不安が金市場の主要ドライバーになっていることを示しています。
したがって、足元の環境では、リーマンショック以降の長期的な金融緩和により実質金利を大幅にプラスにすることが難しく、政府債務拡大や通貨価値の希薄化への懸念が根強い中、利上げが行われても金価格が堅調に推移する可能性があります。一方で、ボルカー時代のように急激かつ持続的なインフレ鎮圧とドル信認回復が実現すれば、金相場が調整する余地もあります。インフレ・通貨リスクへの備えとして金を一定割合保有しつつ、金融政策や実質金利の動向を注視することが重要です。

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