円は本当に“割安”なのか?ガンドラック氏が示す反転の条件


1. 定立(主張)— 日本円は割安で上昇する

  • 円は割安だという認識
    ガンドラック氏は、円は「かなり安い通貨」であり今後上昇すると語った。ローゼンバーグ氏も「ドル円は120〜130円程度が妥当」と述べ、円が過度に安く評価されていると認めた。本稿では引用元の記載を省いているが、外部データによっても裏付けが存在する。
  • ファンダメンタルズ面での支援要因
    RBCキャピタル・マーケッツの通貨レポート(2025年11月)によれば、購買力平価(PPP)で見たドル円の適正水準は113円で、当時の実勢レート155円と比較すると「USD/JPYは過大評価」と記されている。
    また、今後12か月は日本国内の投資魅力が高まり、外貨ヘッジニーズが増えることで円がサポートされると指摘している。日銀が量的・質的緩和を縮小することで民間投資家が国債を吸収せざるを得ず、外国債券の購入がすでに1000億ドル減少している。ヘッジコストは2026年までに50~180ベーシスポイント低下する見込みで、最大1730億ドルのドル売り・円買い需要を生む可能性があると述べている。
    さらにRBCは2026年末のドル円を130円程度と予想し、円高方向の見通しを示している。
  • 実質金利差の縮小
    日銀はゆるやかな利上げサイクルに入っており、米国は2026年に利下げに向かうとの観測がある。RBCも米金利が2026年半ばまでに75bps切り下げられる可能性を指摘しており、金利差縮小は円高要因となる。

これらのポイントは、円が構造的に割安であり中期的に上昇する可能性が高いという主張を支えている。


2. 反定立(反論)— 円安は続く可能性が高い

  • 目先の政策・ファンダメンタルズは円安材料
    同じRBCレポートでも1〜3カ月の短期見通しでは「円は持続的な弱さに直面している」と認めている。要因として、日銀の金融政策への不透明感や低ボラティリティ環境が挙げられ、円がキャリートレードの調達通貨として引き続き売られやすいと指摘している。
  • 財政刺激とインフレ懸念
    ロイターは、2025年11月11日の記事で「新首相高市早苗の下、10兆円規模の財政刺激が計画され、日銀の利上げが先送りされるとの見方が円安を加速させている」と報じた。記事では、過去の介入水準(145円や152円)を超えて円が155円近辺まで下落し、企業が痛みを感じる水準に達しているが、金利差拡大や刺激策が円安を支えているため、政府が為替介入に踏み切る可能性は低いと分析している。
    Mizuhoのアナリストは現在の金利差ならドル円は145円未満が妥当だが、スプレッドが拡大しているため円が異常な弱さにあると指摘しつつも、米ドルの安定や日本の刺激策が円安圧力となっていると述べている。
  • 債務問題と長期緩和への懸念
    記事の筆者は、日本の巨額債務問題が将来的な金融緩和を不可避にし、円安が続くと主張している。レイ・ダリオ氏の著作でも、巨額債務を抱える国は通貨安によって負債負担を軽減するしかないと述べられており、この視点では円もドル同様に長期的な通貨安に陥る可能性がある。
  • 投機筋の円売りと介入警戒
    ロイターは、昨年の円買い介入は145円と152円で行われたが、現在の水準では介入が機能しない可能性が高いと指摘している。更に、円の1%下落がコアインフレ率を0.05ポイント押し上げるとMizuhoの試算を引用しており、円安が続けばインフレ圧力も高まるため、当局の対応が難しいとの見方を紹介している。

これらの反論は、短期および構造的な要因から円安が容易には解消しない可能性を示唆する。


3. 総合(止揚)— 円は割安だが回復には時間と条件が必要

  • 割安だが短期は慎重に
    購買力平価やヘッジフローの観点から、円は割安で中長期的に反発余地があることは確かである。RBCはヘッジコストの低下と国内投資の魅力向上により、今後1年で最大1730億ドル相当のドル売り・円買いが起こり得ると予想している。しかし、同レポートは目先の政策不透明感とキャリートレード需要で円が弱いとも認めており、短期的には円安圧力が続く可能性が高い。
  • 財政・金融政策の転換が鍵
    円高への反転には、日銀が積極的な金融引き締めに舵を切り、政府が過度な財政拡張を抑制することが条件となる。現状では新首相の財政刺激策と日銀の慎重姿勢が円安を支持しており、国内政治の変化がない限り円高は限定的かもしれない。
  • 投資戦略としての示唆
    投資家は円の割安さに着目しつつも、短期的なボラティリティと政策リスクを考慮すべきである。円建て資産への投資やドル円ショートなどは、中長期的なポジションとして考える一方、短期的には損失耐性が求められる。
    また、円安は日本株や輸出企業には追い風となるが、過度な通貨安はインフレや消費の悪化を招きかねない。今後の為替動向は、国内外の金利差、金融政策、財政運営のバランスによって左右されるだろう。

要約

  • 定立: ガンドラック氏とローゼンバーグ氏は円が非常に割安で上昇余地が大きいと主張しており、RBCの通貨レポートもPPP値113円に対し現行レート155円とドル円が過大評価であること、ヘッジコスト低下や国内投資の魅力向上で今後1年は円高に向かう可能性を示している。
  • 反定立: しかし、日銀の慎重姿勢や新首相による大型財政刺激策が円安圧力となり、金利差の拡大やキャリートレード需要で円は弱含みが続いている。ロイターは、円が介入水準に近づいているが、基本的なファンダメンタルズが円安を支えているため当面反転は難しいと指摘している。
  • 総合: 円は長期的には割安であり反発余地はあるものの、政策転換や外部環境の改善が必要で、短期的には円安が続くリスクが高い。投資家はこの二面性を理解し、ポジションサイズや時間軸を慎重に設定する必要がある。

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