テーゼ:銀価格は50ドル突破で急騰する
フォン・グライアーツ氏は長年ゴールドを推奨してきましたが、近年はシルバーにも注目しています。彼の主張の核は以下の通りです。
- 過去の高値は発射台だ:1970年代・2011年・現在のインフレ局面で銀価格はいずれも50ドル付近に達しており、彼はこの水準を「抵抗線ではなく発射台」と捉えています。50ドルを明確に上抜ければ、短期間で60~80ドル、さらには数百ドル台に向かうと予想しています。
- ゴールドとの比価に着目:歴史的に金銀比は15倍前後で推移してきたとされますが、現状では80倍以上と離れています。彼は金が1万ドルに達する可能性を前提に、比価が平均に戻れば銀は600ドル以上になり得ると述べています。
- 通貨価値の希薄化が背景:米国の巨額債務と金融緩和によりドルの価値は下落し、基軸通貨の凋落が始まっていると分析します。ドルの価値が弱まれば実物資産への資金シフトが強まり、銀価格の爆発的上昇が起こるという論理です。
このように、彼のテーゼは過去のパターンと金銀比の回帰を根拠に、銀価格の大幅上昇を強く予想するものです。
アンチテーゼ:50ドルは強い抵抗帯であり、上昇には条件がある
これに対して、主流派のアナリストや別のリサーチではより慎重な見解も示されています。
- 50ドルは心理的な天井:銀は過去50年で何度か50ドル付近まで急騰したものの、その都度大きな調整が起きています。この水準では利益確定売りや需給調整が働きやすく、簡単に「発射台」として突破できるとは限りません。
- 短期的にはボラティリティとリスクが高い:2025年10月時点で銀は45〜53ドルに一時上昇しましたが、その後ETF資金の流出やドル高が進めば25〜35ドルへの調整もあり得るとの分析があります。銀は市場規模が小さく投機資金に左右されやすいため、上昇局面でも急落に注意が必要です。
- 供給面の余地も残る:銀は金と違って産業用途が半分以上を占めます。太陽光パネルや電子機器の需要増加は長期的な追い風ですが、価格が高騰すれば代替技術やリサイクルが進み、供給不足が緩和される可能性もあります。また、中央銀行が銀を本格的に準備資産化する兆候は限定的で、金のような安全資産としての地位が確立されるには時間がかかります。
- 金銀比の固定的な意味は薄れつつある:産業用途と投資需要の違いから、金銀比は経済環境や技術変化に応じて変動します。近年は平均15倍から大きく乖離しており、過去の平均に必ず回帰するとは限りません。
このように、アンチテーゼは50ドル突破後の更なる上昇には複数のハードルがあり、楽観視には慎重な評価が必要であると指摘します。
ジンテーゼ:長期的な強気シナリオの可能性を認めつつ、段階的な上昇とボラティリティを考慮する
両者の見解を統合すると、銀市場に対して以下のようなバランスの取れた視点が導かれます。
- 長期的な追い風は存在
米国をはじめとする主要国の債務負担と金融緩和は続いており、実物資産への資金流入は今後も継続しそうです。また、太陽光発電や電気自動車などのグリーンテクノロジーが銀需要を押し上げる構造的な要因もあります。供給も多くは他の金属の副産物であり、急激な増産が難しいため、中長期的な需給逼迫は起こり得ます。 - 短期的には高ボラティリティに注意
銀市場は規模が小さく、ETFや先物市場の動きに敏感です。金利動向・米ドル指数・ETF資金の流入出・産業需要といった指標を注視し、レバレッジをかけた過大なポジションは避けるのが現実的です。特に50ドル前後では利益確定売りや投機的な売買が集中しやすいため、急落リスクにも備える必要があります。 - 金銀比の狭まりはあり得るが、過去の平均への完全回帰は保証されない
金と銀の相関関係は長期的には維持される傾向にあるものの、産業需要の影響や投資家心理の違いから比価は大きく変動します。歴史的な平均15倍に向かって縮小する局面もあり得ますが、そのスピードや水準は予測しにくく、単純な過去の平均値だけで価格を予想するのは危険です。 - 投資戦略としては段階的なポジション取りが妥当
銀の長期的な上昇シナリオに期待する場合でも、相場の急変動を考慮して投資額やタイミングを分散させることが推奨されます。50ドル突破を「発射台」と捉える意見もあれば、抵抗帯と見る意見もあるため、複数のシナリオを念頭に置きながらリスク管理を徹底するべきです。
最後に要約
エゴン・フォン・グライアーツ氏は、銀価格が50ドルの壁を越えれば急騰し、金銀比の回帰によって600ドル以上も視野に入ると主張している。背景にはインフレやドルの弱体化があり、実物資産への資金シフトが進むと見る。一方、他のアナリストは50ドルが心理的抵抗帯となっており、一気に突破できる保証はなく、ETF資金の流入出やドル高局面では25〜35ドルへの調整もあり得ると指摘する。また、銀の産業用途の割合や市場規模の小ささから、ボラティリティが高く過去の金銀比に必ず戻る保証はない。総合的には、銀には長期的な上昇要因が存在するものの、50ドル突破後の展開は複数の要因に左右されるため、短期的な激しい上下動に注意しつつ段階的な投資判断を行うことが重要であるといえる。

コメント