ETF資金流入と中央銀行買いが支える“構造的強気相場”の本質

1. 正:強気な見通し(上昇要因)

近年の金価格は歴史的な上昇局面にあります。2025年10月に金は初めて1オンス4,000ドルを突破し、年初来で約50〜55%も上昇しています。いくつかの要因がこの上昇を支えています。

  • 中央銀行の旺盛な買い
    新興国を中心とした中央銀行は、デジタルドル化(ドル離れ)や地政学的な不確実性への備えとして過去最高水準の金を購入しています。世界の中央銀行は年1,000トン超を買い入れており、2025年の第3四半期には中央銀行買いが220トンと前期比28%増になりました。ポーランドや中国、インド、トルコなどが先導し、金保有は米国債を上回る割合になっています。
  • 投資家の復帰とETF流入
    西側投資家は数年ぶりに金への関心を高め、金ETFへの資金流入は第3四半期に222トン、金裏付けETF全体の資産残高は4,720億ドルで過去最高を更新しています。リスク回避志向や米ドル安への期待が背景にあります。
  • 地政学・マクロ要因
    米国と中国の貿易摩擦、関税政策や中東情勢など不透明要因が続き、投資家は安全資産として金を選好しています。金はインフレや通貨価値の低下に対するヘッジとして長期的に機能し、分散投資の効果も高いとされています。
  • 価格予測の上方修正
    多くの金融機関が金価格の上昇継続を予想しています。モルガン・スタンレーは2026年末までに4,400ドルへ上昇すると予測し、ゴールドマン・サックスは2026年末に4,900ドルを見込みます。ヴァンエックは構造的なトレンドが続けば2030年までに5,000ドルに達する可能性もあると指摘します。

2. 反:慎重な見通し(下落・調整要因)

一方、金価格の上昇に対する懸念や逆風も存在します。

  • 需要破壊と宝飾品需要の減退
    高値が続くことで宝飾品需要は鈍化しています。世界の宝飾品需要は記録的な価格環境下で前年比二桁減となり、モルガン・スタンレーも第2四半期の宝飾品需要が2020年第3四半期以来最低であると指摘します。価格が上がるほど中央銀行も目標保有量の達成が早まり、購入量を減らす可能性があります。
  • 米ドルの強さと金利動向
    金は無利息資産であるため、米国金利が高止まりしたりドルが予想外に強含んだりすると魅力が低下します。J.P.モルガンは、金はドル安と金利低下局面で魅力が高まる一方、ドル高や金利据え置きの場合はモメンタムが失速するリスクを指摘します。
  • 中央銀行買いのペース鈍化
    世界の中央銀行による金買いは高水準ながら前年より減速しています。2025年第3四半期までの累計買い入れは634トンで、前年同期の724トンを下回りました。現行の高値が続けば購入コストが上がり、今後の買い入れペースが鈍化する懸念があります。
  • 供給面と鉱山開発
    高価格にもかかわらず鉱山会社は慎重で、新規プロジェクトの認可・規制上のハードルが高いと報告されています。しかし生産は徐々に増加しつつあり、2025年第3四半期には再生金含め供給が過去最高の1,313トンとなり、前年同期比3%増。供給増は将来の価格圧力になり得ます。

3. 合:統合された見方と今後の展開

以上のように、金価格の見通しには上昇要因と下落要因が併存しています。弁証法的に整理すると次のようになります。

  • **正(上昇要因)**として、中央銀行や投資家による金需要の構造的な増加、世界的なデジタルドル化と地政学リスクへの懸念、インフレや通貨価値低下へのヘッジ需要が強調されます。これらが金価格のサポート要因となり、長期的には価格水準の「リベース」をもたらす可能性が高いです。
  • **反(下落要因)**として、金価格上昇に伴う需要破壊、宝飾品消費の減退、中央銀行買いの減速、米ドルの強さや金利上昇リスクが挙げられます。供給が増えれば余剰が発生し、短期的な調整局面も想定されます。
  • **合(総合的な展望)**としては、金が今後も「戦略的資産」としてポートフォリオの一部に位置づけられる可能性が高いものの、価格は一方向には進まず、マクロ経済や金融政策に応じて揺れ動くと考えられます。金はインフレや市場ショック時のヘッジ手段として有効ですが、過度な一本足打法は避け、投資家は利上げやドル動向、宝飾需要の変化など潜在的な逆風も注視する必要があります。

4. 要約

  • 中央銀行と投資家の需要が金価格を支え、金は2025年に過去最高を更新。中央銀行は年1,000トン規模の買いを続け、ETFへの資金流入やドル離れの動きも後押ししている。各社の予測では2025年末〜2026年に4,000〜4,400ドル、長期的には5,000ドルに達する可能性もある。
  • 高値が需要を抑制し、供給増とドル高・金利高がリスク要因に。宝飾品需要は二桁減となり、中央銀行の買い入れペースも前年を下回っている。金利が下がらない、ドルが強含む、供給が増えるといった場合、金価格のモメンタムは低下し得る。
  • 総合的には金はポートフォリオのリスクヘッジとして有効。長期的に見れば地政学リスクや通貨価値の不安定化が続く限り、金需要は構造的に支えられる。しかし短期的な価格変動も大きく、マクロ環境と需要構造の変化を注視することが重要である。

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