『非課税ではなく控除』という真実:贈与税教育に必要な概念整理

命題:年間110万円以下の贈与は“非課税”である
暦年課税制度では、贈与税額を計算する際に年間110万円が「基礎控除」として差し引かれるため、年間の贈与額が110万円以内なら贈与税を支払う必要がありません。このことから、「110万円までは非課税枠」と言い表されることが多く、実務者以外の間では「110万円までなら贈与自体が非課税財産である」と誤解されがちです。

反命題:110万円枠は控除であり、贈与財産は課税対象に含まれる
国税庁の解説では、贈与税の対象となる財産から110万円を差し引いた残額が課税価格とされ、合計額が110万円以下なら「贈与税はかからない(申告も不要)」と記述されています。あくまで控除であり、贈与した財産自体が“非課税財産”になったわけではありません。
一方、相続税法21条の2や国税庁のタックスアンサーNo.4405が定める「贈与税がかからない財産(非課税財産)」は別概念です。例えば、親が子に負担すべき生活費や教育費をその都度贈与する場合、それが通常必要と認められる範囲で直接支払われるなら贈与税は課されません。ただし、その資金を貯蓄や株式購入に回すと課税対象となります。このような非課税財産は政策的配慮により贈与税の課税対象から除外されており、110万円の基礎控除とは性質が異なります。

さらに、贈与税の申告義務は相続税法28条で定められており、基礎控除額を超える課税価格がある場合に発生します。国税庁は「1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額が110万円以下なら贈与税はかからない(この場合、贈与税の申告は不要)」と明記しています。しかし、配偶者控除(いわゆるおしどり贈与)や住宅取得資金・教育資金の一括贈与など、政策的な非課税措置を受ける場合は税額がゼロでも申告が必要です。

総合:控除と非課税を区別し、申告義務と併せて理解する
110万円枠は「贈与税の計算上差し引く基礎控除」であり、贈与された財産そのものが非課税財産になるわけではありません。一方、生活費・教育費等の非課税財産は贈与税の課税対象に含めない特別な扱いであり、これに該当すれば贈与額にかかわらず税が課されません。この二つを混同すると、例えば110万円以内の贈与を「非課税」と誤認して証拠書類や手続きを怠ったり、本来申告が必要な非課税特例の申請を忘れたりする危険があります。さらに、贈与が形式的で受贈者が財産の管理権を持たない場合、税務署は「名義預金」と認定し、贈与と認めないこともあります。
したがって、税理士などの専門家は研修等で次のように指導する必要があります。

  • 基礎控除内の贈与(暦年課税・相続時精算課税) – 課税対象の贈与財産から控除した後の課税価格が110万円以下なら税額はゼロで申告義務はない。しかし、控除と非課税を混同しないよう注意し、贈与の事実を示す契約書や通帳の記録等の証拠を残す。
  • 非課税財産 – 扶養義務者からの生活費・教育費など、相法21条の2等に定める財産は贈与税の課税対象外で、110万円枠とは関係がない。
  • 特例による非課税制度 – 配偶者控除、住宅取得資金、教育資金、結婚・子育て資金等の特例は政策上の非課税措置であり、適用を受けるには贈与税の申告が必要。

要約

「110万円までなら贈与税が非課税」という通俗的な理解は、「非課税財産」と「基礎控除」を混同した誤解である。110万円の枠は贈与税の計算上、課税対象から差し引く基礎控除に過ぎず、贈与自体が非課税になるわけではない。贈与税がかからない財産とは、生活費や教育費など特定の目的に限定された贈与であり、これらは相法21条の2に基づいて課税対象から除外される。また、基礎控除内の贈与で課税額がゼロの場合は申告義務がないが、配偶者控除や住宅取得資金などの非課税特例を利用する場合は税額がなくても申告が必要。この区別を理解しないと、制度の利用や申告を誤りやすくなるため、税理士は研修などで「控除と非課税」「申告義務の有無」の違いを徹底して指導すべきである。

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