問題意識
インターネット上のコンテンツ利用が容易になった現代、ブログやSNSへの文章・写真の無断転載が増えています。権利者が数百万円~数千万円を請求することもありますが、裁判所が実際に認める損害賠償額は請求額と大きく乖離する場合が多いです。ここでは過去の裁判例をもとに典型的な賠償額の傾向を分析し、その背景要因や減額のポイントを検討します。
テーゼ:請求額に比べ実際の賠償額は低いことが多い
裁判例を見ると、ブログ記事や写真の単発転載では賠償額が請求額より大幅に低くなる傾向があります。裁判所は原告が主張する逸失利益やライセンス料を厳格に審査し、実際の損害が限定的と判断すれば数十万円程度にとどまることが一般的です。例えば次のようなケースがあります。
| 事例 | 請求額 (概算) | 認容額 (概算) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 資産運用ブログ転載事件(東京地裁) | 約300万円 | 100万円 | 投資情報ブログを無断転載。裁判所は損害額を100万円と認定。 |
| 旅行会社による写真転載事件 | 約70万円 | 約15万円 | プロ写真家の写真をブログに掲載。実際には15万円程度の損害と判断。 |
| ニュース見出し転載事件 | 約6800万円 | 約24万円 | ニュースサイトの見出しの著作物性が認められず、大幅に減額。 |
さらに、SNS投稿の改変に対して50万円超を請求したケースでは、24万円しか認められませんでした。また、フリー素材だと勘違いして使用した場合でも、裁判所は20万円弱の賠償額にとどめています。素人撮影の不動産写真を無断使用した事件では1枚あたり1000円と認定され、総額は数万円でした。
こうしたケースでは、著作物性の有無、実際の逸失利益、侵害の規模などが重要視されます。請求額が過大であると裁判所に判断された場合、損害賠償額は大きく減額されます。
アンチテーゼ:多額の賠償が認められる場合もある
一方で、侵害の態様が悪質だったり、使用された作品数が多い場合には高額な賠償が命じられることもあります。以下の事例では数百万円規模の賠償が認められました。
- 猫写真コラージュ看板事件:猫写真156枚を無断使用し、写真の目をくり抜くなど嗜虐的な加工を施した看板を作成したケース。裁判所は複製権侵害として写真66枚分の66万円と、同一性保持権侵害に対する慰謝料200万円を認め、弁護士費用を含め合計約300万円の賠償を命じました。
- イラスト使用Tシャツ事件:イラストを無断でTシャツに利用して販売したケースでは、裁判所がライセンス料を約122万円と計算し、人格権侵害に対する慰謝料30万円、弁護士費用15万円を合わせて約167万円を認めました。
- アパレル画像大量転載事件:ウェブサイトに多数の写真を無断掲載した事例で、裁判所は1枚当たり6000円のライセンス料を採用し、335枚の利用に対して約200万円の損害額を認定。慰謝料も付加されました。
これらの事例から分かるように、(1)大量の著作物を無断利用、(2)商業的な利益追求、(3)著作物の改変が著作者人格権を著しく侵害する、といった要素があると賠償額は高くなります。
ジンテーゼ:損害額の幅を理解し、減額交渉や適切な対策を取る
損害賠償額の「相場」はケースによって幅が広く、一律に語ることはできません。一般的な傾向として次のように捉えられます。
- 数十万円~100万円程度:ブログ記事や単発の写真など小規模な侵害。請求額に比べて大幅に減額されることが多い。
- 100万円前後:複数の文章や写真の転載など中規模の侵害。権利者の逸失利益がある程度認められる場合。
- 数百万円規模:多数の画像やデザインを無断使用し、商業的利益を得ている場合や、人格権侵害が悪質な場合。慰謝料や弁護士費用が上乗せされる。
加えて、著作権法には損害額の立証を補助する推定規定があり、侵害者の利益やライセンス料相当額を基準に損害額が算定されます。被告側は、著作物性がないことや損害発生の欠如、過失の不存在を主張して減額交渉を試みる余地があります。逆に権利者側は、合理的な損害額の根拠を示し、人格権侵害や逸失利益の大きさを証明することが重要です。
まとめ
日本の著作権侵害訴訟における損害賠償額は、侵害の態様や規模、著作物の種類によって大きく変動します。ブログや写真の単発転載などでは数十万円程度に留まる例が多いものの、商業的利用や大量の画像使用、人格権侵害が伴う場合には数百万円の賠償もあり得ます。訴えられた場合は請求額に惑わされず、具体的な損害や過失の有無を検討しつつ適切な対応を取ることが重要です。

コメント