テーゼ:トランプ政権は暴落後に市場を支える策を総動員する
2018年の中間選挙後、米国株式市場は米中貿易摩擦や利上げ懸念で急落したが、2019年にはFRBが利上げを停止して年内のバランスシート縮小を終える方針を示し、米中交渉の進展が報じられると市場は急反発した。2020年春、新型コロナ流行によりS&P500は2月中旬から3月半ばにかけて30%以上下落したにもかかわらず、FRBが政策金利をゼロ付近に引き下げ、大規模な資産買い入れや信用供与プログラムを開始し、連邦政府が最大規模の財政支援を実施した結果、株価は4月末までに下落の半分以上を取り戻し、8月には主要株価指数が回復した。この経験から、トランプ政権は暴落局面でも大胆な金融・財政政策や外交取引を駆使し、市場をV字回復へ導くとのイメージが形成された。2025年には湾岸諸国とのAI加速パートナーシップや5GW規模のAIキャンパス建設など巨額の取引が発表され、市場関係者の注目を集めた。このため、第二次トランプ政権が2026年の中間選挙後に中国との対立を激化させ、市場が暴落した直後に中東との大型AI契約や金融緩和によって急反発を演出し、支持基盤である機関投資家を利するのではないかという推測が生まれる。米大統領がFRB議長を指名する権限を持ち、2026年5月の任期満了を前にトランプ氏が利下げ志向の人物を登用する可能性が報じられ、経済顧問ケビン・ハセット氏が有力候補とされている。ハセット氏は「今なら利下げをする」と発言するなど、トランプ氏の低金利志向に沿った見解を示している。
アンチテーゼ:市場回復の主因は独立した金融政策と幅広い経済要因である
2019年のV字回復はFRBの独立した判断による利上げ停止・利下げへの転換と米中交渉の進展が主因であり、政権が意図的に暴落を引き起こしてから回復を演出した証拠はない。2020年の株価反転も、金利をゼロに引き下げたFRBの緊急措置や大規模資産購入、3兆ドル規模に拡大したバランスシート、議会与野党の協力による数兆ドルの財政刺激策が大部分を占めている。CLAの経済分析も、2020年第二四半期の株価反発は「巨大な金融・財政刺激策がリスク資産の大きな上昇を引き起こした」と指摘しており、S&P500の四半期20.5%上昇は過去20年以上で最高だった。政府は個人に現金給付を行い企業の資金繰りを支え、FRBは社債やETF購入を含む前例のない市場介入を実施した。トランプ政権の政策が一翼を担ったとしても、市場回復は独立した中央銀行と議会が主導した複合的な政策の結果であり、特定の投資家を利することを狙った計画的な市場操作ではない。さらに、FRB議長の任命は上院の承認が必要であり、議会や市場の信認を損なう人選は政治的リスクを高める。現在報じられているハセット氏の起用も候補者の一人に過ぎず、最終決定ではない。FRBは法律上独立性が保障されており、大統領が議長を任命しても政策決定過程は合議制であり、短期的な政治的意図で金融政策を左右することは難しい。
ジンテーゼ:政治と市場は相関するが陰謀論では説明できない
過去の経験は、危機時に政権が景気対策や外交取引を通じて市場安定を図ることが多い点を示している。中国との貿易交渉や湾岸諸国との巨額投資契約は株価に影響を与え、中間選挙後に政権が景気を下支えするインセンティブがあることも確かだ。第二次トランプ政権が低金利志向のFRB議長を任命し、対外政策で強硬姿勢と協調路線を繰り返すことで市場のボラティリティが高まる可能性はある。しかし、2019年や2020年のV字回復は独立した金融政策と巨大な財政刺激が牽引したものであり、政権の思惑だけで株価の大局が決まるわけではない。市場には企業収益、消費動向、世界経済、地政学リスクなど多くの要因が作用し、意図的に暴落と回復を演出することは現実的ではない。政策イベントと市場の相関を分析する際は、多様な経済要因や制度的枠組みを踏まえる必要があり、陰謀論的な見方に偏らない冷静な考察が求められる。
要約
2018年末の株価急落は貿易摩擦と利上げ懸念が重なった結果であり、翌年のV字回復はFRBの利下げ転換と米中交渉の進展が主因となった。2020年のコロナ危機では、主要株価指数が30%以上下落したが、FRBが政策金利を0%に引き下げ、数兆ドル規模の資産買い入れと信用供与を行い、議会が巨額の財政支援を実施したことで株価は数ヶ月で戻った。2025年には中東とのAI大型契約が注目を集めたが、これをもって第二次トランプ政権が意図的に市場を暴落させ回復させるとする憶測には根拠がない。FRB議長の任命権は大統領にあるが、議長候補は上院の承認を要し、独立性が制度的に確保されている。Kevin Hassett氏が次期議長の有力候補と報じられているものの、最終決定は未定であり、FRB政策が政権の意向のみで左右されるとは限らない。市場の大局は金融政策、企業収益、世界経済、地政学リスクなど複数の要因によって決定されるため、単純な陰謀論では説明できない。

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