金本位なき金本位:中印が進める静かな通貨防衛戦略

正(テーゼ):金による金融の要塞化は不可避な流れ

中央銀行が金準備を増やす動きは、国際金融の地政学的リスクとドル覇権への懸念から加速しています。ロシアはSWIFT排除後に金をルーブルの支えとして活用し、通貨急落を抑えました。これを教訓に、中国は米中対立の深刻化を念頭に金備蓄の拡大を進め、人民元の国際化とドル依存低下を図っています。インドもまた、ルピーの安定と外貨準備の多様化を目的に金購入を増やしています。こうした流れを考えると、金の戦略的価値は高まる一方であり、両国が今後も金保有を拡大するのは必然と見ることができます。

反(アンチテーゼ):金依存の過度な拡大には限界やリスクがある

一方で、金準備の積み増しには限界も存在します。まず、中国もインドも多額の外貨準備を米ドルや米国債で運用しており、これを急激に金にシフトすれば、外貨流動性の確保や国際取引の柔軟性が失われる恐れがあります。また、金価格の変動は激しく、保有増加は資産価値の変動リスクを高めます。さらに、急速な金の積み増しは国際金融市場に過度な緊張をもたらし、ドル市場や債券市場への影響を通じて世界経済の不安定化を招きかねません。インドに関しては、米国との友好関係やITサービス輸出などドル建て収入に依存していることから、金戦略が過度に進むと対米関係の悪化を招く可能性もあります。

合(ジンテーゼ):バランスを取りながらの持続的な金拡充

以上の正反の観点を統合すると、中国とインドは金の積み増しを継続しつつも、ドルやその他通貨とのバランスを保ちながら運用する「漸進的金戦略」を採るのが現実的です。中国は人民元の国際化やデジタル人民元の普及を進める中で、金の裏付けを強調する可能性がありますが、極端な金本位制には踏み切らず、上海黄金取引所を活用した間接的な金連動策や資源決済通貨バスケットなど多層的な手段を模索するでしょう。インドはルピーの信認向上と貿易金融の多様化を図るなかで金保有を増やし続けるものの、対米関係やIMF体制との調和を意識し、急進的なデドル化は避けると考えられます。

要約

ロシアの事例と米中対立の激化を背景に、中国とインドは金準備の重要性を再認識し、これを増やす動きを強めています。しかし、外貨準備の流動性や国際金融への影響を考えると、過度な金依存にはリスクがあります。そのため、両国はドル資産とのバランスを維持しながら、金保有を徐々に増やし、非常時には金を通貨防衛の手段として活用できるよう備える「漸進的かつバランス重視」の戦略を採る可能性が高いでしょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました