市場機能の空洞化:パッシブマネーがもたらす新たなバリュエーションの時代


1. 正(テーゼ)—価格発見機能の低下とマルチプル拡大

  • パッシブ運用の急増:S&P500やオルカンなどの指数連動型投資が急拡大し、個人投資家だけでなく機関投資家もパッシブに資金を流入させるようになりました。指数に含まれる銘柄は、業績や割高・割安に関わらず自動的に買われ続けるため、需給によって株価が押し上げられます。
  • アクティブ運用の弱体化:パッシブ運用が主流になった結果、企業のファンダメンタルズを分析し割安株を選別するアクティブファンドの運用資金が細り、価格決定力が低下しました。その結果、株価が業績に基づいて修正される価格発見機能が弱まり、PERが高止まりしやすくなります。
  • 「参加者数のバブル」:投資人口が拡大し、新NISAでまとまった資金が指数に流れ込むと、株式市場に新規資金が常時供給される状態が続きます。この資金供給が株式の需給を歪め、適正価格に収束しにくい構造が形成されます。

2. 反(アンチテーゼ)—価格発見は依然機能しているという見方

  • 企業間競争と業績の影響:ビッグテックの巨額投資競争や新規事業の展開によって、EPS(1株当たり利益)の伸びが鈍化すれば株価は反応します。実際にAIへの巨額投資がフリーキャッシュフローを圧迫する懸念が出ており、投資家もそれを意識するようになっています。
  • マーケットの自己調整:マルチプル拡大が過度に進めば、金利上昇や景気後退の局面で投資マネーが一斉に流出しやすくなり、株価は急落します。2022年の米国金利上昇でPERが一時16倍まで調整された例が示すように、市場には調整機能が残っており、過剰なマルチプル拡大を抑える力が働くこともあります。
  • アクティブ運用の再評価:インデックス投資では取りこぼす可能性のある割安株や成長株を見つけ出すアクティブファンドの重要性が再認識され、ファンダメンタルズ重視の投資家も一定数存在します。これは市場における価格発見を支える要素です。

3. 合(シンセーゼ)—バランスを取った見解

指数連動の資金流入はマーケットの力学を大きく変え、価格発見機能を鈍らせる要因となっています。特に株式投資の裾野拡大とパッシブ運用の浸透は、PERの高止まりを正当化するような市場心理を生み出しました。反面、企業の業績や金利動向といったファンダメンタルズは依然として重要であり、AI投資競争による収益の不確実性や景気変動がマルチプルを調整する局面もあり得ます。投資家は、市場構造の変化を認識した上で、指数の連続的な上昇に過度な期待を抱かず、個別企業のリスクやバリュエーションも検証する姿勢が求められます。


要約

パッシブ運用の台頭による自動的な資金流入や投資人口の急増が、株式市場における価格発見機能の弱体化とマルチプル拡大を招いている。一方で、企業業績やマクロ環境が株価に影響を与える調整力も依然として存在し、AI投資競争などの不確実性がマルチプルを押し下げる可能性もある。このため、市場参加者はインデックス神話を疑い、適正バリュエーションと分散投資を意識する必要がある。

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