金比率1割未満の日本:外貨準備とインフレ脆弱性

テーゼ:金準備が少ないほどインフレに弱いという主張

  • 日本の金保有比率は1割未満
    財務省の外貨準備統計によると、2025年時点で日本の総外貨準備は約1兆3,242億ドル、そのうち金は約932億ドルで全体の1割に満たない。民間資料では、約799トンの金保有量は世界9位ながら外貨準備に占める割合は約4%と述べられており、米国やドイツなど主要国の60〜70%台と比べると極めて低い。
  • 金はインフレに強い資産
    ワールド・ゴールド・カウンシルの調査では、中央銀行が外貨準備として金を保有する最大の理由に「長期的な価値の保存/インフレヘッジ」を挙げる中央銀行が最も多く、金は実物資産として希少価値が高くインフレに対する防御機能があると認識されている。また「危機的状況下でのパフォーマンス」や「効果的なポートフォリオ分散」も高い理由として示され、金は金融危機や地政学的リスクの際に他資産と異なる値動きをし、ポートフォリオ全体のリスクを抑える。
  • 世界的に金保有が増加傾向
    2024年には各国の中央銀行が1000トン以上の金を購入し、世界全体の金準備は約3万6千トンに達し、公的準備に占める金の割合は20%を超えユーロを上回った。日本の金比率が低いままでは、長引くインフレやドル離れの動きが進んだ際に外貨準備の実質的な価値が目減りし、資産防衛力が弱いと懸念する声がある。

アンチテーゼ:金を増やせば良いわけではないという反論

  • 金は収益を生まない
    金には預金の利息や債券のクーポンのようなインカムがなく、価格上昇を待つほかリターンを得る手段がない。外貨準備は必要時に為替介入や対外支払いに使うものであり、米国債など流動性が高く利回りを稼げる資産が主力となる。金の比率を高めれば保有収益が減り、政府の財政負担を増やす可能性がある。
  • 価格変動や為替リスク
    金価格はドル建てで取引されるため、ドル円の為替変動に影響されやすく、急激な円高局面では評価額が目減りする。金は長期的には価値が安定していると言われる一方、短期的には価格変動が大きく、極端な保有は外貨準備の安定運用を損なう。
  • 運用・保管コストや流動性の問題
    金は現物で保管する場合、保管料や保険料がかかり、売却にも時間がかかる。外貨準備は急場での換金性が重要であり、米国債や高格付け外国債の方が迅速に運用・換金できる。日本政府が金の比率を低めに維持しているのは、為替介入など実務面を考慮した結果とも言える。

ジンテーゼ:バランスのとれた外貨準備とインフレ耐性

  • 金の役割は重要だが比率がすべてではない
    金はインフレに対する長期的な保険であり、世界の中央銀行が金保有を増やす背景にはインフレと地政学リスクへの警戒がある。一方、金は利息を生まず流動性が低いため、外貨準備全体の収益性と機動性を考えると、金だけに頼るのは適切ではない。日本の場合、外貨準備の多くを米国債などの金利収入の得られる資産で運用することで政府財政を支えている。金を増やすにしても、他の資産とのバランスや保管コストを踏まえた戦略的な配分が必要になる。
  • インフレ対策は金以外にもある
    日本銀行は物価連動国債や通貨スワップ、デリバティブといった手段でインフレに備えることが可能であり、金保有比率の低さは直ちに経済を不安定にするものではない。また政府のインフレ対策は金融政策や構造改革を含む総合的なものであり、単に金の量を増やすことでインフレ耐性が高まるわけではない。

要約

日本の外貨準備に占める金の割合は約4〜7%で、米欧主要国が60〜70%台の金保有率を持つのに比べて大幅に低い。金はインフレヘッジとして重視され、中央銀行が金を保有する最大の理由に「長期的な価値の保存/インフレヘッジ」が挙げられる。世界的な金保有の増加はインフレ懸念や地政学的リスクの反映であり、日本の低い金比率は将来的な物価上昇に脆弱だとする批判がある。一方で、金は利息を生まず流動性が低い資産であり、外貨準備を効率的に運用し為替介入に対応するには米国債など金利を生む資産が不可欠である。結局のところ、インフレ対策として金の役割を認識しつつも、外貨準備全体の収益性・機動性・多角化を考慮したバランスの取れた配分が求められる。

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