正(テーゼ):表面的にはサービス業景況感は堅調
- 総合指数は拡大を維持
2025年11月のISMサービス業(非製造業)PMIは52.6%と、前月の52.4%からわずかに上昇し、拡張域(50超)を維持しました。GDPの約7割を占めるサービス部門が好不況の境目を超えていることは、米経済全体の底堅さを示しています。 - 主要構成項目も拡張基調
事業活動指数は54.5%、新規受注指数は52.9%といずれも50超で推移し、受注は6か月連続で拡張となっています。サプライヤー納期指数は54.1%と12カ月連続の拡張で、トランプ政権関税の影響で遅延が見られるものの、需要が堅調であることを示唆します。 - 価格指数の低下がインフレ抑制に寄与
価格指数は65.4%と4.6ポイント低下し、7カ月ぶりの低水準となりました。供給制約の緩和や需要の一服がインフレ圧力を弱めており、利下げ期待が株式市場を支える要因と考えられます。
このように総合指数や主要構成項目は拡張を示しており、表面上は米経済がソフトランディングに成功しているように映ります。
反(アンチテーゼ):雇用指数の低迷が発する警鐘
- 雇用指数は6カ月連続で縮小
雇用指数は48.9%と前月から上昇したものの、6カ月連続で50を下回り「縮小」を示しました。実際に、サービス業の雇用は4月以降持続的に縮小しており、11月の値も「雇用の減少が続いているが減少ペースが鈍化した」ことを示すに過ぎません。 - 生産性向上や不透明感による採用抑制
ISMの報告では、労働コストを抑えるために離職者の補充を行わない企業が増えており、AI導入や関税、政府支出不確実性などの要因で採用意欲が減退していると指摘されています。また、移民取り締まりによる労働供給の減少もサービス業の人手不足を悪化させています。 - 新規受注の減少が景気の先行き懸念を示唆
新規受注指数は56.2%から52.9%へと大きく低下しました。注文はまだ拡張域ながら減速しており、先行き不透明感から顧客が慎重になっている可能性があります。
雇用の弱さと受注の減速は、サービス主導の景気拡張が持続可能かどうかに疑問を投げかけています。雇用が大きく回復しないまま消費が弱まれば、総合PMIが50を下回り景気後退へ向かう恐れがあります。
合(ジンテーゼ):拡張と減速の交錯に注目すべき
- 拡張局面の中に潜む減速の兆候
PMI総合指数は拡張域ですが、雇用は6カ月連続で収縮し、新規受注の伸びも鈍化しています。これは、企業が需要の先行きを懸念しながらも、生産活動を維持している状態を示しています。 - 歴史的な順序関係からの示唆
過去の景気循環では、株式市場が先に天井をつけ、その後しばらくして景気後退が顕在化し、最後にISM指数が50を割り込むパターンが見られました。2000年のITバブル崩壊や2008年の金融危機では、S&P500がピークを打ってから1年以内にリセッションが始まり、その後で非製造業PMIが50を割りました。今回も雇用指数の弱さが続く場合、株価の先行きには注意が必要です。 - ソフトランディングか、リセッションの前触れか
一方で、雇用指数自体は10月の48.2%から48.9%へと上昇しており、4カ月連続で改善しています。企業による雇用削減のペースが鈍化していることから、景気が減速しつつも急落を避け、インフレが落ち着けばソフトランディングが実現する可能性も残されています。政策金利の動向や労働市場の動きが今後の焦点となるでしょう。
要約
2025年11月のISM非製造業PMIは52.6%と拡張域を維持し、事業活動や新規受注も50を超えた。一方で雇用指数は48.9%と6カ月連続で50を下回り、サービス業の人員削減が続いている。これは企業が需要見通しに慎重になっている証拠であり、受注の減速も景気の陰りを示唆する。総合指数は堅調だが、雇用の弱さが続く場合、株価の天井形成や景気後退のリスクが高まるため、労働市場と新規受注の動向を注視すべきである。

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