①テーゼ:金市場の双璧としての共通点と協働
両者は国際的に通用する「グッドデリバリー」基準を設け、精製業者や保管倉庫の質を保証することで金市場の信頼性を支えています。LBMAは1987年に設立され、400トロイオンス(約12.4kg)のロンドン・グッドデリバリー・バーを標準とするなど、世界の店頭取引(OTC)における現物金取引の基盤を提供しています。また、ロンドン・フィックスと呼ばれるオークション方式で金価格を1日2回設定し、現物市場のベンチマークとして機能します。一方、COMEXはシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の一部門で、100オンスを基準とする先物契約を上場し、世界最大の金先物市場として短期価格発見に寄与します。両者とも厳格なバーの純度や刻印規定を持ち、グローバルに流通する金の品質と流動性を保証しています。
②アンチテーゼ:物理市場とデリバティブ市場の違いが生む矛盾
その一方で、LBMAとCOMEXには本質的な相違が存在し、緊張関係を生み出します。LBMAは卸売りの物理市場で、金融機関や中央銀行が現物金を売買する場であるため、主に現物の供給と需要に基づきます。価格は選ばれた参加者によるオークションで決まり、取引は店頭ベースで透明性が低いという批判もあります。COMEXは清算機構を備えた取引所で、先物トレーダーやヘッジャーが多く、価格は電子的な注文板によって継続的に決定されます。実際の受渡しは契約のごく一部で、多くは差金決済や「エクスチェンジ・フォー・フィジカル(EFP)」と呼ばれるロンドン市場への振替で決済されます。標準バーの重量も異なり、ロンドンでは400オンス、ニューヨークでは100オンスが使われるため、バーの融解や再鋳造が必要になることもあります。こうした違いは、価格スプレッドや配送遅延の原因となり、時にはロンドンとニューヨークの価格が乖離することがあります。
③ジンテーゼ:補完関係と統合の試み
しかし、この矛盾は互いを補完し合うことで解決に向かっています。LBMAの現物価格は世界中の現物保有者や金ETFの価値を支え、COMEXの先物市場は短期的なヘッジや投機に不可欠な流動性を提供します。両市場はバー規格や品質基準を統一し、相互受け入れを進めており、最近ではCOMEXが400オンスバーや1キロバーを受け渡しに認めるなどバーサイズの融通を図っています。また、LBMAは金融監督庁とICEベンチマーク管理機構の監督下にあり、COMEXは米商品先物取引委員会の規制下にあるため、制度上の信頼性も高いです。現物と先物が別々に存在することで、市場参加者は目的に応じて適切な市場を選択でき、両者の価格差は裁定取引によって縮まりやすくなります。このように、LBMAとCOMEXは異なる性質を持ちながらも、金市場全体の安定と効率を支える両輪として機能しているのです。
要約
- LBMAはロンドンを中心とするOTC市場で、400オンスバーなど現物取引の基準を定め、1日2回のオークションで世界的な現物金価格を設定する。
- COMEXはCMEグループ傘下の先物取引所で、100オンスバーを中心に金先物を上場し、短期的な価格発見とヘッジ手段を提供する。
- LBMAは現物市場ゆえに流動性や透明性に制約があるが、現物の品質と信頼性を保証する役割を担い、COMEXは差金決済が中心で「紙の金」と批判されるが、巨額の取引高で価格発見に貢献する。
- 二つの市場はバーサイズや契約構造、規制体系などが異なるが、相互に受け渡し基準を整えつつ補完し合い、金市場の安定と効率を高めている。

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