減速か、成長か:JPモルガン・ヘルスケア会議が映した市場の二面性

JPモルガン・ヘルスケア・カンファレンス初日(2026年1月12日)は、買収や大幅なガイダンス変更といった派手なニュースがなく、全体的に静かな幕開けとなりました。その中で注目されたのが、トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)市場で競う二社の発言です。アルナイラム・ファーマシューティカルズ(ALNY)は新薬アムヴトラの売上見通しを市場予想を下回る約8.27億ドル(2025年第4四半期)とし、市場全体の成長が減速していると説明しました。一方、同じ市場でアコラミディス(商標:Attruby)を販売するブリッジバイオ(BBIO)は同期間の売上を1.46億ドルと予想を上回る結果とし、「市場の減速は感じていない」と発言。両社のコントラストが投資家の注目を集め、アルナイラムの株価は−6.87%下落する展開となりました。

論点の整理

  • アルナイラム(ALNY)の主張(テーゼ)
    • アムヴトラの第4四半期売上は市場予想8.52億ドルに対して8.27億ドルとなる見通し。
    • 傘下製品のネットプロダクト収益は前年比81%増と大きく伸びているが、心アミロイドーシス市場の需要が想定より伸び悩んでいると説明。
    • 成熟市場に近づくにつれ新規患者数が頭打ちとなり、他社製品との競争も激化している可能性を示唆している。
  • ブリッジバイオ(BBIO)の主張(アンチテーゼ)
    • 第4四半期のAttruby売上はアナリスト予想1.39億ドルを上回る1.46億ドル、年間売上は3.624億ドルと順調。
    • 医師による処方件数や患者数が増加傾向にあり、新規診断者の掘り起こしが進んでいると強調。
    • 市場全体のペースは衰えておらず、自社製品の差別化により継続的な成長が見込めると述べている。

両社の見解が異なる理由

ATTR-CM市場は近年急拡大し、複数の治療選択肢が登場してきました。アルナイラムのアムヴトラはRNA干渉(RNAi)治療薬として臨床的な有効性が高い一方、投与開始までの診断・遺伝子検査などのハードルや既存患者の多くが既に治療に取り込まれている点から、新規患者獲得が鈍化した可能性があります。また、アルナイラムはオンパットロやギブラリも抱えており、既存製品とのカニバリゼーションや薬価交渉の影響も考えられます。

一方、ブリッジバイオのAttrubyはトランスサイレチン安定化剤として経口投与が可能で、既存薬のタファミディス(ファイザー)の後発競争として位置付けられます。臨床試験では心機能改善と死亡・入院リスク低減を示し、価格面でも競争力を持つため、新規患者や他剤からの切り替えが順調に進んでいるようです。6,000人超の患者に処方されたと報告されており、マーケティングやアクセス戦略の違いが売上に直結していると考えられます。

市場の現実とより深い理解(ジンテーゼ)

両社の主張は矛盾しているように見えますが、実際には市場のフェーズや製品ポジショニングの違いが背景にあります。

  • 市場が成熟する兆候:心アミロイドーシスの診断率が向上し、早期診断が進んだことで、初期の「隠れ患者」を取り込むフェーズは一巡しつつあります。アルナイラムのように早期参入した企業は、この段階で成長の鈍化を感じやすくなります。
  • 継続する拡大余地:一方で、全世界には未診断の患者がまだ多数存在し、診断技術の普及や治療選択肢の増加によって市場は拡大を続けています。ブリッジバイオは新薬効果や処方しやすい剤形により、従来の薬に満足していない医師や患者を取り込んでいると考えられます。
  • 製品特性と価格戦略:RNAi治療薬は投与間隔が長く効果が高いもののコストが高く、保険償還のハードルがある場合もあります。安定化剤は価格が比較的低く、服薬が簡便であるため普及しやすいという利点があります。

以上から、ATTR-CM市場全体は依然として成長余地があるものの、企業によって収益成長の体感は異なるということが示されます。成熟市場への移行期には製品ポートフォリオや市場アクセス戦略の優劣が強く反映され、先行企業は急成長後の調整局面を迎える一方、新規参入企業は拡大フェーズを享受することが多いのです。

結論と要約

JPモルガン・ヘルスケア・カンファレンス初日は目立ったM&Aがなく、各社の業績報告が中心でした。その中で、ATTR-CM市場を巡るアルナイラムとブリッジバイオの発言が注目されました。アルナイラムは2025年第4四半期売上が市場予想を下回る見通しで「市場の減速」を指摘し、株価が急落しました。一方、ブリッジバイオは同期間の売上が予想を上回り、市場の伸びを実感していると強調しました。この矛盾は、製品タイプやターゲット患者、価格戦略の違いから生まれるものであり、市場そのものが完全に停滞しているわけではないことを示しています。両社の発言を弁証法的に捉えると、市場は成熟期に入りつつも拡大余地を残しており、競合各社の成否は製品の特性や市場アクセス戦略によって大きく左右されると結論付けられます。

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