善意の減税が地獄を見るとき:非課税と免税が生む二重の歪み

1. 前提:非課税と免税の違い

消費税制度では、課税対象の取引を「課税」「非課税」「免税」などに分類しています。飲食料品を「消費税ゼロ」にするには、主に2つの方式が考えられます。一つは医療費や土地取引のように取引そのものを課税対象外にする「非課税取引」で、社会政策的な配慮により消費税法上の課税要件を満たしていても税を課さない形です。もう一つは輸出取引のように税率を0%にして輸出業者が納めた仕入税額を控除できる「免税取引」で、取引は課税対象だが特定の条件に該当すると税金を免除し、仕入税額の還付を認めます。

2. 命題(非課税による軽減の肯定的側面)

  • 家計負担の軽減:食料品の消費税率をゼロにすれば、現在8%(軽減税率)の負担がなくなり、消費者は支払い総額が減ります。例えば1,000円の食品は1080円から1,000円に下がり、物価高への対策として期待されます。
  • 社会政策的配慮:人々の生存に不可欠な食料品に税を課さないことは、低所得者層への配慮や福祉政策の一環という議論があり、既に医療費や教育費が非課税となっている流れに沿う考え方です。

3. 反命題(非課税・免税が招く問題)

3.1 非課税化の負担と弊害

  • 仕入税額控除ができず「損税」になる:非課税売上には仕入税額控除が適用されないため、販売事業者は仕入れ時に支払った消費税を自ら負担することになり、価格転嫁や利益減少を招きます。社会保険診療のように非課税とされた医療機関は、医薬品や設備などの仕入れにかかる消費税を控除できず、これを「控除対象外消費税」として負担しています。医療分野では診療報酬に上乗せして補塡していますが、設備投資や物価高騰などで負担は増え続け、補塡のばらつきや実質的な税負担が問題となっています。同様に、食料品を非課税とすると農家や食品製造業も仕入れ税の還付を受けられず、コスト増から経営を圧迫し価格が下がらない恐れがあります。
  • 税制の複雑化と経理負担:非課税品目が増えるとレジや会計システムの改修、従業員教育などが必要で、事業者の経理処理が混乱するおそれがあります。

3.2 免税化のリスク

  • 仕入税額控除は可能だが不正還付の温床に:免税取引は本来課税取引であるため仕入税額控除が認められ、輸出業者などが仕入れ時に支払った消費税を還付してもらえます。しかし、この仕組みを悪用する事例が多数報告されています。
  • 輸出免税制度の悪用例:大手百貨店が大量の免税販売を実施した際、国税庁は免税対象ではないと判断し、課税逃れを摘発しました。また、名古屋の企業が輸出した自転車の台数を水増しして還付額を不正に増やした事件が起きています。
  • 「金の循環取引」などの不正還付:秋葉原の免税店が金製品を関連会社と循環取引し、書類上だけ外国人に販売したように装うことで還付を受けた事例では、70億円もの不正還付が生じていました。国税庁は同じ高級腕時計のシリアルナンバーや偽造パスポートを使った架空の免税売上げを通じた不正還付を把握し、2024年の法改正で免税店で消費税が免除された物品を仕入れた場合には仕入税額控除を認めない措置が導入されています。
  • 食料品の免税が誘発する疑惑:食料品まで免税対象にすると、金製品の循環取引のような手口を食品に応用し、不正還付を狙う事例が増える可能性があります。国内販売を海外販売と偽装したり、架空の輸出を繰り返す「回転売買」で還付を受ける誘惑が高まります。

4. 統合(解決策と考察)

弁証法的観点では、命題(家計負担の軽減)の価値を認めつつ、反命題(非課税や免税の弊害)に対処する「統合」が求められます。主な方向性は次のとおりです。

  1. 軽減税率・給付措置の組み合わせ:既に日本では飲食料品の消費税率を8%に抑える軽減税率が導入されており、家計への配慮と事業者の仕入税額控除を両立させています。さらなる負担軽減には低所得者層向けの給付金や食品補助券など直接的な支援を検討する方が、税制度の混乱を招きにくいでしょう。
  2. 非課税と免税の制度設計の再考:非課税取引に伴う控除対象外消費税の問題は医療分野でも議論されています。食料品で同じ状況を作らないためには、仮に税率ゼロを導入する場合でも医療のような非課税ではなく、仕入税額控除を認めつつ還付を厳格に審査するゼロ税率(免税)の形を採ることが考えられます。その際はインボイス制度や電子化により取引を透明化し、不正還付を防止する仕組みを整える必要があります。
  3. 不正対策の強化:輸出免税制度の悪用を防ぐために、国税庁は還付申告の審査を厳格化し、不審な取引に対する調査や免税店の監督を強化しています。食料品免税案を検討する場合も、事前に同様の不正対策を講じることが不可欠です。
  4. 財政・社会保障への影響評価:食料品を税率ゼロにすると約8~10%の税収減となり、その分社会保障費の財源が減少します。将来世代への負担増を避けるためには、財源確保策や税体系全体の再設計が必要です。

要約

  • 非課税方式では、消費税の対象から食料品の販売自体を除外し、消費者の負担は減るが、仕入税額控除ができないため農家や食品製造業は仕入れ時に支払った消費税を負担しなければならない。医療の例のように設備投資や物価高で負担が増し、一部は結局消費者に転嫁される。
  • 免税(ゼロ税率)方式では、仕入税額控除が可能で事業者の負担は軽くなるが、輸出免税制度を悪用した不正還付が過去に頻発し、金製品の循環取引のような手法で巨額の還付を受けた事例もある。食料品に免税を適用すると同様の不正が起きるリスクが高い。
  • 弁証法的には、家計負担軽減という命題を実現しながら、不正や事業者負担の問題を抑える統合策が必要である。現行の軽減税率を維持しつつ所得に応じた給付金を充実させる、ゼロ税率を採る場合はインボイス制度を活用した厳格な管理と不正防止策を実施するなど、多面的な政策が求められる。

コメント

タイトルとURLをコピーしました