問題意識
法人税の申告書では、会計上の当期純利益を基に別表4で課税所得を算出します。上場株式などの有価証券は期末に評価換算差額を計上することがあり、企業会計上は評価損益が損益計算書や純資産に反映されます。ところが法人税法では評価損や評価益の扱いに特別な規定があり、申告調整を行う必要があるかどうかが論点になります。
正 (肯定側) ― 有価証券評価損益は別表4で調整が必要
- 評価損は損金として認められない場合が多い
上場株式等の「その他有価証券」について会計上は期末の時価が取得原価を下回る場合に評価損を計上しますが、法人税法では価値の一時的な下落による評価損の損金算入を認めていません。期末時点で損益計算書に計上された評価損は、税務上は損金不算入となり別表4の「加算」欄で当期利益に戻し入れる必要があります。また、翌期に有価証券を売却した場合には、過年度に加算した評価損額を別表4の「減算」欄で調整し、二重課税を防ぎます。 - 償還期間のある債券などでも計上方法が異なる
満期保有目的の債券は償却原価法により利息相当額を認識するため、期末の時価評価は行いません。これに反して会計上時価評価した場合、その評価損や評価益は法人税法で認められていないため、別表4の調整が必要です。 - 洗替法における評価損の繰越
売買目的以外の有価証券の評価損を当期に計上し、翌期以降に時価を戻入した場合、税務では評価損そのものを損金として認めていないため、別表4で損金不算入とし、戻入時は別表4の減算欄で調整します。
反 (否定側) ― 調整が不要とする立場
- 売買目的有価証券やデリバティブは会計と税務で一致
短期売買目的の有価証券(売買目的有価証券)は法人税法でも時価評価を認めており、評価益・評価損は当期の益金または損金とされます。この場合、会計上の評価損益と税務上の取り扱いに差異が無いため別表4での調整は不要です。 - その他有価証券の評価差額金(評価益)は純資産直入で損益計算書に影響しない
会計上、その他有価証券の時価が取得原価を上回る場合には評価差額金を純資産(その他の包括利益累計額)に計上します。損益計算書に計上しないため、当期利益には反映されず別表4に載らない。法人税法でも評価益は確定利益として課税対象となるため別表4での調整はせず、別表5(1)で利益積立金や納税充当金を調整します。 - 税効果会計による法人税等調整額は別表5で処理する
会計上、評価差額金に対応する繰延税金資産や繰延税金負債を計上すると法人税等調整額が損益計算書に計上されます。法人税申告書ではこの調整額は税務上「なかったもの」とみなされ、別表4ではなく別表5で利益積立金や繰延税金資産・負債を増減させる形で処理します。したがって評価差額金に伴う税効果会計だけを理由に別表4を調整する必要はありません。
合 (統合) ― 調整の要否は有価証券の区分と会計処理によって異なる
- 売買目的有価証券・デリバティブ取引は税務でも時価評価が採用されているため、評価益・評価損はそのまま益金または損金となり別表4の調整は不要。
- その他有価証券の時価が取得原価を下回り、損益計算書に評価損を計上した場合は、税法上は一時的な下落による評価損を損金として認めない。したがって別表4の「加算」欄で損金不算入として調整し、売却など評価損が確定したときは別表4の「減算」欄で取り戻す。
- その他有価証券の時価が取得原価を上回り、純資産直入法で評価差額金を計上した場合は損益計算書に影響しない。税法では評価益も課税対象となるが、会計上当期利益に含まれていないため別表4ではなく別表5(1)で利益積立金や納税充当金を増減することにより調整する。税効果会計により繰延税金資産・負債を計上している場合も同様である。
- 満期保有目的の債券や長期保有株式等については、法人税法が規定する評価方法と会計処理が異なる場合(例えば償却原価法を用いずに時価評価した場合)、別表4で調整を行う必要がある。
最終的な考察
有価証券評価損益に関する法人税別表4の調整は一概に「ある」「ない」と答えられるものではなく、有価証券の区分や会計処理によって異なります。売買目的有価証券の評価損益は会計と税務で一致するため調整不要。他方、その他有価証券の評価損は税務上損金不算入のため別表4で加算し、売却時に減算。評価益は純資産に直入されるため別表4ではなく別表5で調整する。このように制度の趣旨を踏まえた適切な申告調整が必要です。

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