ロシア政府が「国家金準備の71%を売却してウクライナ戦争の資金調達に充てた」という報道は衝撃的ですが、その前提や背景を慎重に検討する必要があります。以下では、弁証法的な視点(テーゼ・アンチテーゼ・ジンテーゼ)でこの事象を考察します。
テーゼ:71%売却は財政逼迫の象徴であり、戦争資金調達のための異常な措置である
- 数値の衝撃:ロシア財務省の公表データによれば、ロシアの国家福祉基金(НФБ)の金保有は2022年5月時点の554.9トンから2025年1月時点の160.2トンへと減り、71%減少しました。2023年に196トン、2024年に171トンと大きく売却され、ほぼ毎月金を手放してきました。
- 財政赤字の補填:ウクライナ侵攻と制裁による石油・ガス収入の減少で、ロシア政府は膨らむ財政赤字を埋める必要に迫られています。国家福祉基金は本来、経済危機時のバッファーですが、軍事費や国有銀行の支援、インフラ投資にまで投入されており、戦費調達色が濃いと批判されています。
- 危機のサイン:通常、金準備は最後の防衛線として温存されるべき資産とされます。その売却は、他に資金調達手段が乏しく、制裁により財源が枯渇しつつあることの証しと見ることもできます。
アンチテーゼ:売却されたのは「国家福祉基金の金」であり、ロシア全体の金準備を失ったわけではない
- 中央銀行の保有は手付かず:ロシア中央銀行は約2300トンの金を保有しており、世界有数の金保有国です。制裁以降、中央銀行は金の大規模な売却や追加購入をほとんど行っておらず、これらは依然として国家の外貨準備として温存されています。従って「国の金準備の71%を売却した」という表現は誤解を招きます。
- 基金の運用規則に基づく措置:国家福祉基金は予算の不足分を補うために流動資産(中国人民元や金)を売却するルールがあり、金価格が高騰している時期に一部を換金するのは合理的な財政運営とも解釈できます。売却益でルーブル相場を安定させる効果もあり、一概に「異常な措置」とは言えません。
- 金買い戻しの余地:2024年には72トン以上の金を買い入れており、一部は再売却されました。国際価格や財政状況に応じて保有量を調整しているだけ、という見方もあります。
ジンテーゼ:財政の苦境を反映しつつも、全体像は誇張されている
ロシア政府が国家福祉基金の金を大量に売却しているのは事実であり、これは石油・ガス収入の落ち込みと戦費の増大に起因する財政難を象徴しています。一方で、売却された金は国家全体の金準備のごく一部であり、中央銀行の金保有は手付かずです。したがって「ロシアが国家金準備の71%を売却した」という表現は、国家福祉基金に限った事実を国家全体に拡大解釈したものと言えます。
最後に要約
2022年以降、ロシア政府は国家福祉基金が保有する金を大規模に売却し、その保有量は554.9トンから160.2トンへと約71%減少しました。これは、制裁やエネルギー収入減による財政赤字を補填し、戦争継続や国内支出を賄うための措置です。しかし、ロシア中央銀行は依然として約2300トンの金を保有しており、国家全体の金準備が枯渇したわけではありません。このため、報道の見出しが暗示する「国家金準備の7割売却」は、財政の苦境を強調するために数値を誇張したものであり、実際には国家福祉基金の資産構成変化を示しているに過ぎません。

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