贈与税はなぜ存在するのか:相続税を補完する制度の論理

贈与税は相続税と同じ法律(相続税法)に規定され、「一税法二税目」として設けられています。この配置は、贈与税が相続税を補完する役割を担っているためです。もし贈与税がなければ、相続発生前に全財産を生前贈与して相続税を回避することが可能になってしまいます。そこで生前贈与に歯止めをかける仕組みとして贈与税が課され、相続税の機能を補完しているのです。

テーゼ:贈与税は相続税を機能させるための補完税

相続税は亡くなった人の財産に対して課税されますが、贈与税は生きている間に財産をもらった場合に課税されます。贈与税を設けることで、相続税の課税対象を生前贈与で減らされるのを防ぎ、相続税が機能するようにしています。その象徴が「暦年課税」における基礎控除110万円で、受贈者ごとに一年間にもらった財産の合計額から110万円を差し引いた残りに贈与税が課されます。例えば、親から子に毎年110万円ずつ贈与すれば贈与税はかからず、20年間続ければ総額2,200万円を税負担なしで移転できます。親が複数の子や孫に110万円ずつ贈与する場合、各受贈者が110万円以内であれば非課税です。この非課税枠により、適正な範囲での資産移転を促進しつつ、相続税の課税対象を適正に維持できるよう設計されています。

さらに、住宅取得資金や教育資金、婚姻20年以上の夫婦間贈与などの特例により、目的に応じて1,000万円~1,500万円あるいは2,000万円まで贈与税を非課税にする制度が設けられています。これらの特例は高齢者から若年世代への資産移転を促すための補完策であり、贈与税の制度全体が相続税の公平な課税を支える仕組みとなっています。

アンチテーゼ:贈与税は過度な負担や不公平をもたらす可能性もある

一方で、贈与税の税率は相続税に比べて高く、直系尊属からの贈与であっても最高税率は55%に達します。相続税の課税ベースを守るためという理由で高率の贈与税を課すことは、資産移転を萎縮させ、資産の生前移転を希望する人にとって過重な負担となる可能性が指摘されています。また、生前贈与による資産移転は遺産の前渡し(特別受益)として扱われるため、遺産分割時に他の相続人との不公平が生じやすく、家族間のトラブルの火種にもなります。

「暦年課税」で贈与した財産は、贈与者の死亡前3年(2026年以降は最長7年)以内の贈与であれば、110万円以下の贈与であっても相続財産に加算されます。さらに贈与税を払っていても相続税額から控除しきれない場合には還付が受けられないため、二重課税のように感じられることもあります。これらの規定は、贈与税が単なる補完税にとどまらず、生前贈与を抑制する強力な制度として作用していることを示しています。しかしその結果、資産移転の計画が複雑化し、税理士等の専門家を介さなければ適正な税負担を判断しにくいという問題も存在します。

ジンテーゼ:両税の調和と継続的な制度改善が必要

贈与税は、相続税を補完するために不可欠な仕組みです。生前贈与に過度な歯止めをかけなければ相続税は機能しませんが、贈与税が高すぎたり制度が複雑すぎたりすると、国民は安心して資産移転を行えません。そこで2024年の税制改正では、「相続時精算課税制度」に年間110万円の基礎控除が新設され、累計2,500万円まで20%の一律税率で贈与できるようになりました。この制度を選択すると贈与時の税負担が軽減される一方、贈与者の死亡時に贈与財産を相続財産に加算して相続税で精算します。また暦年課税でも、加算期間を7年に延長する際に最初の4年間の贈与のうち100万円は加算対象から除外するなど、制度の柔軟性が高められました。

このように、贈与税と相続税の制度は相互補完のバランスを取りつつ見直されています。納税者側は、110万円の非課税枠を活用してこまめに資産を移転する「暦年贈与」と、相続時精算課税や住宅・教育資金等の特例を上手に組み合わせることで、無理のない相続対策が可能です。一方で、贈与の時期や金額によっては相続財産に足し戻されるため、専門家の助言を得ながら慎重に計画することが求められます。

要約

贈与税は、生前に無制限に贈与して相続税を逃れることを防ぐため、相続税を補完する目的で設けられた税です。暦年課税制度では受贈者ごとに年間110万円の基礎控除があり、この範囲内の贈与は非課税となります。親から子や孫など複数の人に110万円ずつ贈与すれば税負担なく資産を移転できますが、生前贈与は死亡前数年間の贈与が相続財産に加算され、贈与税の高税率も相まって負担が重くなることがあります。2024年改正では「相続時精算課税制度」に年間110万円の基礎控除が導入されるなど、贈与税と相続税の調和が進められており、両税を理解してバランスよく活用することが重要です。

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