暗号資産と金の融合が揺さぶる通貨秩序

テザーは安定価値を保証するステーブルコインの発行者でありながら、2026年1月の報道によると過去1年間に70トン超の金を購入し、保有量は約140トン、価値は約240億ドルに達しています。同社の最高経営責任者パオロ・アルドイノ氏は今後数か月間、週1〜2トンのペースで金購入を継続する意向を示し、暗号資産と金を結びつける「金の中央銀行」のような役割を果たすと述べています。テザーの金購入量はポーランドを除くほぼ全ての中央銀行が公表した年間購入量を上回り、主要な金ETFの上位3本を除けば個人投資家が参加するETFより多いと報じられています。さらに同社は金地金を保有するだけでなく、取引部門を設立して市場の非効率を利用することで銀行と競合する意向を示し、金鉱山ロイヤルティ企業の株式にも投資しているとされています。こうした行動は、デジタル資産と実物資産を結びつける象徴的な動きとして注目され、金に裏付けられたステーブルコインXAUTも市場の約60%のシェアを持つ。

しかし、テザーの存在感が急速に拡大する一方で、リスクに対する懸念も浮上しています。評価機関S&Pは2025年11月、USDTの安定性評価を「制約あり」から「弱い」に引き下げ、準備資産の中でビットコインや金など高リスク資産の比率が上昇していること、保管機関や取引相手に関する情報が限定的であることを理由に挙げました。元BitMEXのCEOであるアーサー・ヘイズ氏も、金やビットコインの価格が30%下落した場合には自己資本が毀損しUSDTが債務超過になる可能性があると指摘し、リアルタイムのバランスシート公開を求めています。また、ジェフリーズ・ファイナンシャル・グループのアナリストは、テザーの大量購入が2025年の金価格上昇の要因となった可能性があり、需要を持続的に押し上げるかもしれないと述べています。これらの指摘は、民間企業が中央銀行並みの規模で金を保有することによる市場支配や価格変動リスクへの懸念、さらには安定性を担保するための透明性や監督の必要性を浮き彫りにします。

両論を踏まえると、テザーがデジタル通貨の信頼性向上と分散化を目的に金を大量に保有する戦略は、暗号資産市場の発展に寄与し得る一方で、市場構造や金融安定性に新たな課題を投げかけています。金と暗号資産はともに政府債務不安への逃避先として機能しており、テザーの戦略はこの2つの資産の連携を加速させています。今後は、テザー自身が宣言するように四半期ごとに需要や市場状況を評価し、透明性ある情報開示や規制当局との協調を進めることが欠かせません。デジタル資産市場の拡大に伴い、民間企業が中央銀行的役割を担うケースが増える可能性があり、その際には市場の健全性とイノベーションの両立を目指す制度設計が求められます。テザーの例から、実物資産に裏付けられたステーブルコインが法定通貨の補完として定着する可能性と、それに伴う規制・監督体制の必要性が浮かび上がります。


要約: テザーは2025年に70トン超の金を購入し、保有量は約140トンと銀行や国家を除けば世界最大級となった。同社は週1〜2トンのペースで購入を続け、金の保有と取引で銀行と競合する意向を示している。一方、S&PがUSDTの評価を引き下げたように、準備資産のリスクや情報公開の不足を指摘する声も強い。金価格の急変によってUSDTが債務超過になる可能性や市場支配への懸念もあり、テザーは透明性を高めるとともに規制・監督を受け入れる必要がある。デジタル資産と実物資産の結合が進む中で、市場の健全性とイノベーションを両立する制度設計が重要である。

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