問題の背景
母親が所有する土地を長男に相続させる際、**「長男は次男以外にこの土地を売却してはならない」**という売却制限条項を盛り込んだ場合について検討しています。長男がこの約束に反して第三者に土地を売却したとき、その売買が無効になるのかという問いを、肯定・否定・統合の三段階で分析していました。
肯定側(売却制限契約を有効と考える立場)
- 負担付遺贈や負担付贈与の制度が存在:民法には受贈者や受遺者に一定の義務を課す制度があり、負担を履行しないときは契約を解除したり遺贈を撤回したりできると定めています。このため、受贈者に特定の義務を課す契約自体は民法上認められています。
- 転売禁止特約が一定の範囲で有効とされた判例:東京地裁平成25年5月29日判決では、マンション販売業者が購入者に5年間の転売禁止条項と高額な違約金を定めたところ、裁判所は転売禁止自体を合理的目的に基づくものとして有効と認めました(違約金は過大であったため減額)。合理的な目的と期間に基づく転売禁止は契約上有効とみなされ得ます。
- 肯定側のまとめ:負担付遺贈や贈与と同様に、長男が土地を相続する際に「次男以外には売らない」という義務を負わせることは可能と考えます。その約束に反した場合、母の相続人は履行催告や契約解除、損害賠償を求めることができるため、売却制限条項は長男に対する義務として有効であると主張します。
否定側(売却制限契約は無効・第三者に対抗できないとする立場)
- 所有権の自由処分と物権法定主義:民法206条は所有者が自由に処分できる権利を保障し、175条は物権の種類や内容は法律の定めるものに限る(物権法定主義)と規定しています。契約によって新たな物権や特別な処分制限を設定することはできません。そのため、「次男以外に売却しない」という拘束は新しい物権的制限を創設するものであり、法律上認められないと考えられます。
- 相続財産の自由な処分を妨げる規定は無効とする説:後継ぎ遺贈のように特定の相続人の処分を制限する遺言は、多くの学説で将来にわたる所有権の拘束として無効とされています。最高裁判所昭和58年3月18日判決でも、この種の拘束が「制限付き所有権」と解釈され無効とされる可能性を指摘しています。
- 第三者への売却には対抗できない:実務上、兄弟間で「将来売却しない」「売るなら兄弟に」と約束する例はありますが、これは当事者間の合意に過ぎず、第三者に対抗できません。長男が土地を第三者に売却した場合、第三者が善意であれば売買契約自体は有効となるとされています。したがって、売却制限条項は債権的効力しか持たず、物権的効力を持たないと考える立場です。
統合的な結論(正反合)
- 当事者間では拘束力がある:母が長男に土地を相続させる際、次男への譲渡を義務とする負担付遺贈や贈与として契約すれば、長男にはその義務が生じます。違反した場合、他の相続人は履行催告や契約解除、損害賠償請求が可能です。
- 物権としては認められない:民法206条および175条に基づき、所有権は法律上自由に処分できるため、契約で新たな処分制限を設けても第三者には対抗できません。長男が善意の第三者に売却した場合、その売買自体は有効であり取引を無効にすることはできません。
- 合理的な期間・目的での転売禁止は認められる可能性:東京地裁の判例が示すように、合理的な期間と目的に基づいた転売禁止条項は裁判で認められることがあります。しかし、本件のように「永久に次男以外へ売却しない」という制限は過度であり、公序良俗違反や物権法定主義違反として認められにくいと考えられます。
- 総合判断:売却制限条項は長男に対する契約上の義務として有効であり、約束違反があれば損害賠償や契約解除を求めることはできます。しかし、制限を物権的効力として認める根拠はなく、長男が第三者に売却した場合の売買契約を無効にすることは困難です。母の意思をより確実に実現するには、相続人全員で共有名義とする、不動産信託を活用するなど、法律に基づいた他の制度を利用する方が現実的でしょう。
まとめ
土地売却に対する制限条項が当事者間での契約義務としては有効でも、その効力が物権として第三者に及ぶか否かについて検討したものです。自由な処分権と物権法定主義により、制限を第三者に対抗させることは難しく、善意の第三者への売却は有効となると結論付けています。そのため、母の遺志を確実に実現するには、法に基づく他の手段を検討する必要があります。

コメント