流動性が支配する市場―「金より現金」の論理

命題(テーゼ):有事には金とドルが同時に買われる

従来、戦争や危機が起きると資金は安全資産に流れ、金と米ドルがともに上昇すると考えられてきた。事実、2022年にロシアがウクライナへ侵攻した際には、金価格もドル指数も大きく上昇し、両者の逆相関が崩れた。地政学リスクが高まり、エネルギー供給に不確実性が出れば、経済や金融システムへの不安が強まり、法定通貨や株式から金へ資金が流れるという経験則がある。金はインフレヘッジにもなるため、原油高に伴う物価上昇が意識されると買われやすい。こうした背景から、2026年の米国・イスラエルによるイラン攻撃でも金は上がるはずだとの見方がテーゼである。

反対命題(アンチテーゼ):2026年の金は買われず、ドル高・利上げ観測が重荷

実際の相場はテーゼと逆の動きを見せた。イラン攻撃が始まってから1カ月の間に金価格は約2割下落し、逆に米ドルは急伸した。今回の特徴は、原油輸送の要衝であるホルムズ海峡の封鎖で原油価格が急騰し、世界的なインフレ圧力が再燃したことだ。各国中央銀行は物価高を抑えるため利上げ継続や引き締め長期化の姿勢を示し、米国債の利回りが上昇した。金は利子を生まないため、利回り上昇とドル高が続く局面では保有コストが意識されて売られやすい。

加えて、株式市場の急落でポジション調整が進み、投資家は証拠金不足や評価損に対応するために流動性の高い金を売ってドル現金を確保した。2025年からの金高騰でETFへの資金流入が過熱しており、今回の急落では「ポジションの巻き戻し」が一気に進んだ。つまり、2026年はインフレ懸念と株価暴落によるドルへの逃避が優先され、金が換金対象となった。安全資産同士の逆相関が復活し、22年との違いが鮮明になった。

総合(ジンテーゼ):安全資産としての性格は不変だが、局面により変動

金が有事に必ず買われるわけではなく、インフレ見通しや金融政策、投資家の流動性需要によって反応は変わる。2022年はインフレがピークアウトし、今後は利下げが意識されていたため、金はドルとともに安全資産として買われた。一方、2026年は中東危機が物価を押し上げ、利上げ長期化への懸念が強まった。株式が暴落したため、現金調達のために「安全資産」であるはずの金まで売られた。このためドル高と金安という逆相関が強く表れた。

しかし、長期的には各国中央銀行の金購入やドル離れといった構造要因が残る。短期的な売りはポジション調整や流動性確保が主因であり、世界経済が落ち着けば金は再び安全資産としての役割を果たすだろう。金市場を理解するには、戦争という単一要因だけでなく、金融政策や市場ポジション、投資家心理が複合的に作用することを踏まえる必要がある。

最後の要約

  • 一般的な経験則では、有事には金とドルが同時に買われるが、2026年のイラン危機では金は下落しドルは上昇した。
  • 原油高によるインフレ懸念と利上げ長期化の見通しが強まり、金の利回りのなさが重荷となった。
  • 株価暴落で証拠金の補填が必要になり、投資家が流動性確保のため金を換金したことも急落に拍車をかけた。
  • 2022年との違いは、物価と金利の見通しの違いにあり、安全資産間の相関は固定ではない。

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