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国名 | 2015年頃(金保有量, 構成比) | 2024–25年頃(金保有量, 構成比) |
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ブラジル | 約67トン, 約1%(※) | 129.7トン, 2.6% |
ロシア | 約1,150トン, 約15%(※) | 2,336トン, 32.9% |
インド | 約557トン, 約5%(※) | 879.6トン, 11.70% |
中国 | 約1,658トン, 約2%(※) | 2,293トン, 5.5% |
南アフリカ | 125.4トン, 約12%(※) | 125.4トン, 約12%(変化なし) |
- ブラジルは2011年以来金買い入れが低調でしたが、2021年に62.3トンを買い増し、2023年には約129.7トンを保有するに至りました。これは外貨準備総額に占める比率で約2.6%に相当します。当時点での金比率は先進国平均より低いものの、近年は増加傾向です。
- ロシアは2014年のクリミア危機以降、急速に外貨構成を多様化し、金保有を積極的に拡大しました。2021年半ばには金がロシア準備の約22%を占めるまでに増加し、2023年には32.9%に達しました。最新では2,336トン(2025年)を保有し、準備に対する金の比率は35.4%に達しています。この背景には、対米制裁下で凍結された外貨準備のヘッジや脱ドル化の戦略があるとされます。
- インドは近年、外貨準備の安定化を図って金買い入れを増加させています。2021年3月末に保有量695.3トン(構成比5.87%)だったものが、2025年3月末には879.6トンに達し、構成比も11.70%に上昇しました。金比率は2019年頃の6–7%程度から2倍近くに高まり、分散投資の意図が明確です。
- 中国は2015年前後からゆるやかに積み増し、2024年末には73.3百万トロイオンス(約2,293トン)の金保有となりました。外貨準備に占める金の比率は2021年末の3.3%から2024年末には5.5%に上昇しています。中国も近年、金融市場の不安定化や対米関係を背景に金の比率を引き上げつつあります。
- 南アフリカは保有量約125.4トン(2024年時点)で推移し、総外貨準備(約674.5億USD)に占める金の割合はおおむね10–15%程度と高水準です。ただし近年の増減はほぼなく、国際価格変動に伴う評価差額が割合変動要因となっています。
BRICS主要5か国の外貨準備に占める金保有率は全体として上昇傾向にあります。OMFIFによれば、2024年半ば時点でBRICS諸国は合計5,700トンの金を保有し、これは世界の外貨準備に占める16%に相当します。2000年代以降、BRICS各国は準備総額のなかで金が占める割合を明確に増やしており(ロシアで10倍超、インドで倍増、ブラジルで顕著な上昇など)、それぞれがドル依存低減や経済リスクヘッジの一環として金備蓄を増やしてきたことが裏付けられています。
金保有比率の推移と弁証法的分析
- 正(Thesis): 金は「安全資産」としての属性が強調され、経済・地政学リスクへの備えやドル依存低減策として中央銀行に支持されています。近年のBRICSでは、米国金融制裁や世界的なインフレ懸念などを受け、ロシアや中国、インドが相次いで金買い入れを加速させました。特にロシアでは、2013年の低水準(約2%)から2023年には約33%に急増するなど、極端な脱ドル化の動きが明白です。OMFIFもBRICSの金備蓄は過去20年で約3倍に増え、「ドル依存を減らす」努力の一環であると指摘しています。こうした動きは、金価格の上昇を受けた評価益も伴いつつ、外貨準備全体の安全性を高める有効策と見なされています。
- 反(Antithesis): 一方で、金が外貨準備の中心通貨(ドル・ユーロなど)を直ちに置き換えるには限界があるとの見方も根強いです。INGリサーチによれば、BRICS+各国の準備に占める金の割合は約10%と世界平均(20%程度)の半分にすぎず、依然としてドルなどの法定通貨への依存度は高いままとされています。金は価値保存性には優れるものの利子収入がなく流動性の低さや価格変動リスクも内包するため、外貨準備全体での位置付けは慎重です。また、BRICS各国間でも経済力や準備高には差が大きく、合意形成や共同行動には困難も伴います。実際、BRICS全体で見れば人民元やルピーなど自国通貨建て資産の割合も増えつつあり、単に金への振り替えだけでは不十分との指摘があります。
- 合(Synthesis): BRICS諸国における金増備の動きは、従来の「ドル中心主義」に対する一つの対応策であり、長期的にはドル安定のパワーバランスに変化をもたらす可能性があります。一方で、金の活用だけで通貨体制を根本的に変えることは容易ではなく、新たな国際通貨・決済手段(BRICS通貨構想、CBDC連携など)との組み合わせが模索されています。つまり時代の変化としては、安全資産としての金の役割を重視しつつも、単独ではなく他の多様化策と並行して活用する動きへと収斂しています。また、BRICS全体では金備蓄の割合はまだ世界平均を下回るものの、今後の金融市場不安や地政学リスク増大時にはさらに買い増し余地が残されており、これらの動向が国際通貨体系に与える影響に注目が集まっています。いずれにせよ脱ドル化の文脈では、金保有比率の上昇はBRICS各国の共通戦略となっており、今後も増加傾向が続くと予想されます。
要点まとめ
- BRICS各国とも過去10年で外貨準備中の金保有量を大幅に増加させ、準備全体に占める金の比率を引き上げている。ロシア(2,336t, 32.9%)やインド(879.6t, 11.7%)の伸びが特に顕著で、中国(2,293t, 5.5%)やブラジル(129.7t, 2.6%)も徐々に高めている。
- この変化は、対米ドル依存低減や金融・為替市場の不安への備えとしての金の価値保存性に注目した結果である。中央銀行は歴史的に金を安全資産と見なし、近年の地政学的緊張やインフレ懸念が買い増しを促した。BRICS全体では2024年半ば時点で5,700トン(世界の16%)を保有し、過去20年で約3倍に増加。
- ただし金の比率は依然、世界平均を下回る水準であり、通貨バスケットや他通貨建て資産との併用が前提である。批判的観点からは、金は流動性に制約があり、ドルを完全に代替するのは困難とされる。
- 弁証法的には、BRICSは「金増備(正)」と「ドル依存とシェアの限界(反)」という相反する要素を調整しつつ、**相対的な脱ドル化(合)**に向かっていると言える。金保有比率は今後も上昇圧力にさらされるが、BRICS諸国は金以外にも地域通貨やデジタル決済構想を検討するなど複合的な脱ドル化戦略を展開していくと考えられる。
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