創造的破壊と制度の保護

テーゼ:受賞研究の妥当性と意義

  • 学術的価値の高さ:モキイアは産業革命以前と以後の社会制度を比較し、持続的な経済成長には研究機関や知を評価する文化が不可欠であることを歴史的視点から示しました。アギオンとホーウィットは創造的破壊が成長を牽引する条件として「知的財産の保護」や「イノベーションへの報酬期間」を理論化し、政策的示唆を与えました。
  • 学際的な広がり:歴史家と経済理論家を同時に評価したことで、経済学賞の射程が単なる数理モデルや実証分析を超え、歴史・制度・政策の相互作用にまで広がっていることを強調しました。
  • 社会的な影響力:イノベーションを巡る議論は技術政策や産業育成に直結し、受賞研究が社会に与えるインパクトは大きいと評価できます。また、近年の受賞傾向が理論と実務の融合やデータ分析重視に移っていることを考えると、今回の受賞はその延長線上に位置づけられます。

アンチテーゼ:疑問点や批判的視座

  • 分野偏重への疑問:2024年の制度研究(アセモグルら)に続き、2025年もマクロ系のテーマが選ばれたことで、マイクロ経済や実験経済など他領域が後回しにされているとの指摘があります。坂井氏自身も、毎年異なる分野に授与されるというジンクスが破られたと述べています。
  • 選考委員の狭さ:ノーベル経済学賞の選考はスウェーデンの有力経済学者に限られており、委員数も少ないため、視野や興味が偏りがちです。新しい委員が入っても多様性確保が難しく、選考理由を説明する負担も大きいことから、人材を増やしづらいという構造的課題があります。
  • 研究の周知度と公平性:モキイアの研究は歴史家の間では高く評価されていたものの、主流派経済学者にとっては知名度が低く、受賞を予想できなかった学者も多くいました。引用数など定量指標を重視しない姿勢は評価できる一方で、受賞対象が広く理解されているとは言い難い点もあります。

ジンテーゼ:全体的な意義と今後の課題

  • 多様性と統合の両立:今回の受賞は、歴史的視点と理論的分析を統合して、持続的成長の条件を包括的に捉えようとする試みとして位置づけられます。分野横断的な研究や社会的意義の高いテーマを重視する姿勢は、経済学賞の進化を示すものであり、連続受賞が偏りと映る一方で「変化の兆し」とも受け取れます。
  • 選考プロセスの透明性向上:限られた委員構成の中でも、選考理由や候補者の評価軸をより開示することで、外部の研究者や一般の理解を深めることが期待されます。委員の専門や出身国の多様化を進めることも公平性への疑念を減らす一歩です。
  • 新しい評価基準の模索:引用数や話題性だけに頼らず、実践的な影響力や基礎研究としての独創性を兼ね備えた業績を総合的に評価する姿勢は維持すべきです。その上で、マクロ・ミクロのバランスや地域・性別など多様な視点を取り入れた選考が求められるでしょう。

最終要約

2025年のノーベル経済学賞は、ジョエル・モキイア、フィリップ・アギオン、ピーター・ホーウィットの3名に授与され、歴史研究と創造的破壊の理論を通じた「持続的成長」の探求が評価されました。これは近年の実証重視の流れに沿いつつも、マクロ寄りテーマが連続するという点で異例です。選考委員がスウェーデン人に限られ、分野バランスの偏りが指摘される一方で、学際的な視野の広がりや社会的な意義の高さは大きく、経済学賞のあり方そのものに議論を喚起しています。

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