米国株式市場では「大統領サイクル」(大統領任期4年間の周期)という経験則が語られます。とくに任期3年目(前年)は平均リターンが最も高く、歴史的に上昇確率も高いとされてきました。
テーゼ:政策のシフトによる3年目の強さ
「ストック・トレーダーズ・アルマナック」を編纂したヤール・ハーシュが提唱した理論では、任期前半は公約の実行や支持基盤への利益誘導が優先され、市場にとって厳しい政策が採られやすい一方、次の選挙が近づく任期3年目には大統領が景気刺激を重視するとされます。増税や規制などの痛みを伴う政策は早い時期に済ませ、景気や株価を押し上げる財政出動や減税は選挙に近い時期に行う方が政治的に得策であり、結果としてS&P500など主要指数が3年目に高リターンを示すことが統計的に示されています。
アカデミックな研究でも類似の主張が見られます。米ウィスコンシン大学の研究では、大統領任期の後半で財政・金融政策がより緩和的になる傾向が確認され、特に3年目の株式リターンが顕著に高いと報告されています。この論文は、まず不人気な財政緊縮や規制を任期の前半に実施し、その後、景気刺激策や連邦準備制度(FRB)の緩和姿勢が強まることが一因だと分析しています。
さらに、3年目は「次期候補者を後押しするために与党が景気を演出する」「議会も有権者向けに成果をアピールしたい」といった政治的インセンティブが働きやすいことも指摘されています。ウォールストリート・ジャーナルのインタビューでハーシュの息子ジェフリー・ハーシュは、「再選を狙う大統領が3年目に強気の演説を繰り返すことが市場を押し上げる」と述べています。
こうした背景の下、1933〜2023年のデータでは3年目に株価が上昇した割合が約90%に達し、平均リターンも他の年を大きく上回るとする統計が示されています。投資家心理も「政権交代のリスクが小さい」「政策の方向性が明確」といった理由から楽観的になりやすく、資金流入が起こりやすいと解釈されています。
アンチテーゼ:相関はあるが因果関係は不確か
しかしこの理論には批判も多く、サイクルが常に機能するわけではないことが強調されています。まず、統計的に観測できる選挙サイクルは20数回しかなく、サンプルが少ないため偶然の可能性を排除できません。また、平均値が高くても各年のばらつきは大きく、3年目でも景気後退や戦争、パンデミックがあれば株価は簡単に崩れます。2020年のコロナショックが典型的な例で、世界的危機が大統領サイクルを無効化しました。
理論の根底にある「大統領が政策で市場をコントロールできる」という前提にも疑問が投げ掛けられています。インベストペディアは、株価は企業業績・利回り・世界的な経済動向など多くの要因に左右され、大統領の影響力は限定的だと述べています。また、市場の3年目の強さが大統領の選挙戦略のせいなのか、それとも単に景気循環や投資家のリスク志向の変化と同期しているだけなのか、因果関係は不明です。
さらに、データ解析によると第1年目や第2年目でも高リターンが記録される例は少なくなく、トランプ大統領の1年目(2017年)の減税による株価急騰など、理論の予測に反する事例も存在します。こうした例外は、大統領サイクルが絶対的な予測指標ではないことを示しています。
ジンテーゼ:周期性は参考程度、根本は政策と景気循環
以上を踏まえると、任期3年目の株高傾向は存在するが、政治的インセンティブと景気循環の組み合わせが生み出す一種の“傾向”に過ぎないと総合できます。歴史的に多くの政権が選挙前に景気刺激策を打ち出し、FRBも景気後退を避けようと緩和姿勢を取ることが多かったため、統計上3年目が強いという現象が現れました。しかし、21世紀のグローバル経済では、大統領の政策だけで市場を動かすのは難しく、国際情勢や構造的な景気サイクルがより重要になっています。
投資家にとって大切なのは、大統領サイクルを鵜呑みにせず、企業業績・金融政策・地政学リスクなど多面的な視点で相場を分析することです。任期3年目に強気になりすぎず、異常な出来事に備えたリスク管理を徹底する姿勢が求められます。

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