命題(戦略的な買い増し)
2025年、中央銀行の金需要は高値にもかかわらず堅調で、年間純購入量は約863トンに達しました。ポーランドが102トン、カザフスタンが57トン、ブラジルが43トンを買い足し、SOFAZ(アゼルバイジャン国営石油基金)やトルコ、中国、チェコ国立銀行なども継続的に購入しました。中央銀行の購入動機は、米ドル依存度の低減や地政学的リスクへのヘッジ、長期的な価値保存資産としての金への信頼です。世界的な金需要構造でも、投資需要(ETFやバー・コイン)と併せて中央銀行の需要が牽引役となり、買い越しの背景には通貨基軸への不安や外貨準備多様化の必要性が示されています。
反命題(売却や調整の動き)
一方で、金価格急騰と流動性需要の高まりは一部中央銀行に売却を促しました。2025年通年では、シンガポール(約26トン)、ガーナ(12トン)、ロシア(6トン)などが純売却に回り、ドイツ連銀やヨルダン中央銀行も1トン程度を硬貨鋳造や政策資金のために手放しました。2025年12月の月次統計では、総購入30トンに対し総売却11トンで、月間純購入19トンにとどまりました。こうした売却は高値を利用した外貨調達や流動性確保を目的とする戦術的なものが多く、金市場の高騰が一部の中央銀行にポジション調整を促したことを示します。さらに2026年1~3月には売却量が拡大し、トルコ(約70トン)が為替・流動性対策のために大量の金を放出し、SOFAZとロシアがそれぞれ22トンを売却した結果、報告済みの売却量は約115トンに達しました。しかし同時にポーランド(31トン)やウズベキスタン(25トン)が大量に買い付け、報告されていない買い増しも多く残っており、2026年第1四半期の中央銀行純購入量は244トンと前年同期を上回りました。
総合(長期的な積極買いと短期的な売却の調和)
このように、中央銀行は金を戦略的資産として積極的に積み増す一方、短期的な市場環境や自国通貨の需給に応じて売却やスワップを行うという対立した行動が見られます。2025年の約863トンの純購入に対し、売却は一部の国に限られ、年間総売却は数十トン規模にとどまりました。2026年初頭に報告された売却115トンも、トルコの為替スワップやSOFAZ・ロシアのポートフォリオ調整といった一時的要因によるもので、金が再び買い戻されると予想されています。この弁証法的分析から、中央銀行の行動は「長期的な金保有拡大」という命題と、「流動性確保や価格調整のための売却」という反命題の間で揺れ動きながらも、全体としては金の戦略的価値を再確認する方向へ収斂していると結論付けられます。

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