863トンの購入と限定的売却──中央銀行の金戦略の本質

中央銀行が2025年に買い増した金量は金相場が過去最高値を更新するなかでも約863トンで、2010~2021年平均(473トン)を大きく上回る規模でした。世界各国の外貨準備に占める金の割合を増やしたいとの意識が強まり、WGCの「中央銀行金準備調査2025」でも95%の中央銀行が「世界の公的金準備は今後増加する」と回答し、自国として金保有を増やすと答えた割合も43%に達しました。このためポーランドが102トン、カザフスタン57トンなど多くの新興国が大口購入を続け、年間純購入量は歴史的高水準となりました。

売却量の把握

「約800トン購入したのなら、どれだけ売却したのか」という問いに対して、WGCは月次の中央銀行統計で「総購入」「総売却」「純購入」を示しています。公開されている月報から売却量が読み取れる主な月は以下のとおりです:

主な売却国・理由総売却量 (トン)出典
2025年3月ウズベキスタンが11t、シンガポール5t、キルギス2tを売却18tWGC月次統計
4月ウズベキスタンが3カ月連続で11t売却11tWGC月次統計
5月シンガポール5t、ウズベキスタン1t、ドイツ連銀1t。ウズベキスタンは年初来の売却が27tに達していた約7tWGC月次統計
7月インドネシア中央銀行が11t減少したため、当初の純購入10tは0に修正11tWGC月次統計
8月WGCブログによれば、売却はロシア3tとインドネシア2tで計5t(本文では数値のみ紹介)5tWGCブログ
9月スクラップモンスターの報道によるとウズベキスタンが4t売却し、純購入は39tだった4tScrapMonster
10月ロシアが3t減少3tWGC月次統計
11月ヨルダン2t、カタール1tの売却3tWGC月次統計
12月シンガポールが11t売却。総購入30tに対して総売却11tで月間純購入は19t11tWGC月次統計・Kitco記事

公開データのある月を合算すると、2025年に中央銀行が売却した金は 約70〜75トン と推定されます。3月の18トンや7月の11トンなど数値の大きい月もありましたが、年間を通して売却量は購入量の約863トンに比べればわずかです。

弁証法的考察

  1. 命題(買い増しの流れ)
    2025年はポーランド・カザフスタン・アゼルバイジャン・ブラジルなど新興国を中心に金保有の拡大が続き、純購入量は863トンに達しました。各国が金を外貨準備の戦略的資産と位置付け、インフレや地政学リスクへのヘッジ、ドル依存度低下(脱ドル化)を目的に積極的に買い増しています。WGC調査でも大半の中央銀行が将来の保有拡大を予想しています。
  2. 反命題(売却・調整の動き)
    一方で、特定の中央銀行は金準備の一部を売却しました。シンガポール金融管理局は5月に5t、12月に11t売却し、年末時点で26tの純売り手となっています。ウズベキスタンは初春に11t規模の売却を続けた後、後半には買い手に転じました。インドネシアは7月に11t減少させ、ロシアやトルコなども一時的に金準備を減らしました。背景には、金価格の高騰を利用した外貨調達や、財政資金確保のための金‐通貨スワップ、国内硬貨発行用の金地金需要(ドイツ連銀の1t売却)など実務上の事情があります。これらは短期的な流動性確保やポートフォリオ調整の一環であり、長期的な金への信頼が失われたわけではありません。
  3. 総合(長期的な買い増しトレンドの中の調整)
    強力な買い増し(863トン)と限定的な売却(約70–75トン)が併存したことで、純需要は約790トンに達しました。売却は主に個別要因による一時的な調整であり、多数の中央銀行が引き続き金保有を増やす姿勢を示していることから、金の戦略的価値が再確認されたと言えます。つまり、短期的な売り(反命題)が存在しても長期的な買い増し(命題)を覆すものではなく、その対立から「金は依然として安定資産であり、保有を拡大する流れは続く」という総合的な結論が導かれます。

このように、2025年の中央銀行金市場は積極的な買い増しと限定的な売却という弁証法的な動きを見せました。売却量は約70〜75トンと推定され、買い増し量に対して極めて小さく、長期的な金保有拡大の流れを損なうものではありません。

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