イギリスの外貨準備に占める金保有比率が他国に比べて低い理由を「ロンドンの民間銀行が大量の金を保有しているから」とする見解は、実際には誤解に基づくものである。弁証法的な枠組みに沿って検討すると、次のようになる。
テーゼ(主張)
ロンドンは金取引の世界的中心地であり、イングランド銀行の地下金庫には約40万本もの金塊が保管されている。そのため、民間の銀行や金融機関が膨大な量の金を保有していることが、英国の外貨準備における金保有比率を押し下げているという見方が出てくる。事実、イングランド銀行は中央銀行だけでなくロンドン貴金属市場協会(LBMA)の一部メンバー企業にも金口座を提供し、ロンドン市場の流動性へアクセスを提供している。このような保管体制が、ロンドンの民間金融機関の「金保有」の印象を強めている。
アンチテーゼ(反論)
しかし、イングランド銀行の金庫に保管されている金のうち、英国財務省が所有する金はわずか6%程度であり、大部分は他国の中央銀行や国際機関の資産である。銀行が商業企業に提供している金口座も、中央銀行の金取引を仲介する目的であり、そこで保管されている金は顧客の所有物であるためイングランド銀行のバランスシートには計上されない。したがって、民間銀行が保有している金の量は英国の外貨準備とは無関係であり、英国の金保有比率が低いことの説明にはならない。
さらに、英国の金保有比率が低いのは政策決定によるものである。1999年、英国政府は金価格が長期低迷していることと金が利子を生まないことを理由に、保有金の約半分を売却し外貨建て資産へ振り替える方針を発表した。このときHM Treasuryの試算では、金を売って外貨資産に投資することで外貨準備全体の変動率を20%低減できるとされた。その後も英国は金ではなく流動性と利息を生む外貨・債券を重視する方針を続けており、これが金比率を低く保っている。
ジンテーゼ(総合)
ロンドンに膨大な金が集積しているのは事実であり、その多くは外国の中央銀行や一部の商業銀行が保有するものである。このことが「ロンドンの民間銀行が大量に金を保有している」との印象を与えるものの、その金は英国の準備資産に含まれない。イギリスが金をあまり保有しないのは、金が無利子で価格変動が大きいと判断し、1999~2002年に大規模な金売却を行って外貨資産に分散した政策の結果であり、民間金融機関の保管量とは因果関係がない。ロンドン市場は世界的な金の集積地・流動性供給地として機能し、イングランド銀行はその保管役を担っている。一方で、英国政府は外貨準備の安定性と収益性を重視し、金保有を少なく抑えている。この両者が併存することで、ロンドンに大量の金がありながら英国の金保有比率が低いという状況が生まれている。

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