紅海危機の顛末とホルムズ危機の現在:タンカー滞留と原油価格


背景

2026年2月末、米国とイスラエルはイランの軍事施設や指導部を空爆し、イランは報復としてペルシャ湾岸のタンカーや荷役施設を攻撃しました。この結果、船舶保険組合は戦争リスク保険を停止し、ホルムズ海峡のタンカー交通量は前週比90%減となり、ペルシャ湾内に約3,200隻、湾外に500隻もの船舶が滞留する事態となりました。この状況は、2023年末〜2025年にかけてイエメンのフーシ派が紅海・スエズ運河で行ったタンカー攻撃を想起させます。紅海危機ではエネルギー物流が迂回したものの、原油市場の反応は当初の懸念より限定的で、ブレント価格はむしろ下落し、2025年5月には米国とフーシ派の攻撃停止合意により航行が回復しました。

テーゼ(命題):ホルムズ海峡の封鎖とタンカー滞留はブレント価格を急騰させる

ホルムズ海峡は世界の原油・LNGの約20%が通過する重要なチョークポイントであり、ここが封鎖されると代替ルートがほとんどありません。空爆後、イラン革命防衛隊が「海峡の通過を禁止する」と宣言したため航行が停止し、船舶追跡データではタンカー交通量が90%減少。世界の船腹の約4%に当たる3200隻が湾内で滞留し、主要保険会社による戦争リスク保険の撤廃で保険料が急騰したため航行再開の目処が立ちません。この供給ショックにより、ブレント原油先物は空爆前の1バレル67〜72ドルから2026年3月6日には83〜85ドルへと約15〜22%上昇し、封鎖が1か月以上続けば100ドルを超えるとの観測も出ています。さらに、攻撃開始後5日間で少なくとも8隻が損傷し、カタールがLNG施設の生産を停止、イラク・サウジアラビア・UAEが積み込みに苦慮するなど供給側への影響も顕在化しています。ゴールドマン・サックスは第2四半期のブレント予想を76ドルに引き上げ、輸出停止の長期化が価格を押し上げると指摘しました。

アンチテーゼ(反命題):市場の適応力と代替供給は価格高騰を抑制する

紅海危機ではスエズ・紅海ルートが攻撃で利用しにくくなった際、海運業界は喜望峰回りに迂回し、サウジアラビアの東西パイプラインなどを使って輸送を維持しました。その結果、原油市場への影響は限定的で、2024年1月には紅海混乱の報道があったものの原油価格は1%超下落しました。ホルムズ海峡の危機でも同様の適応が期待され、サウジアラビアが東西パイプライン経由で紅海側から輸出する動きが見られます。万が一、ホルムズと紅海の二つの航路が同時に遮断されても、米国や他地域からの供給シフトや在庫放出で需要を満たす余地があります。またOPECプラスは日量206,000バレルの増産に合意しており、ブレントが一時14%急騰した後、市場は落ち着きを取り戻しつつあると報じられています。原油価格の高騰は消費を冷やし代替エネルギーへの移行を促すため、需要破壊が価格上昇を自ら抑制する可能性も指摘されています。

ジンテーゼ(総合):短期的には価格押し上げ圧力が強いが、中長期的には代替ルートと政策対応で収束へ

弁証法的視点では、ホルムズ海峡封鎖という供給ショック(テーゼ)と市場の適応力・代替供給(アンチテーゼ)の対立から、一定期間を経て均衡が形成されると考えます。短期的には海峡封鎖による船舶滞留や保険料高騰が続き、ブレント価格は80ドル台後半から100ドル近くまで上昇する可能性があります。実際、海運の足止めが5日間続き、ペルシャ湾内には3,200隻の船が滞留するなど供給ショックは現在進行形です。LNG供給の約20%を担うカタールの停止で欧州・アジアのガス価格も上昇しています。

しかし長期的には、産油国が紅海側への輸出シフトやOPECプラスの増産、米国の保険支援や海軍護衛の検討など政策対応により、供給ショックは徐々に緩和される見通しです。保険料が高止まりする間は航行再開が難しいものの、保険引受限度の引き上げや国際的な護衛枠組みの構築が進めば、数週間から数か月で航路再開の可能性が高まります。過去の紅海危機でも攻撃が長期化しても世界の石油市場は巡航し続け、ブレント上昇は一時的にとどまりました。2025年5月の停戦合意のように国際社会の介入で攻撃が停止すると保険市場も正常化し、航行再開が実現しました。したがって、現在のホルムズ危機も短期的なリスクプレミアムを経て徐々に収束に向かうと見込まれます。

結論

米国とイスラエルによるイラン攻撃はホルムズ海峡と紅海という二つの海上チョークポイントを不安定化させ、原油・LNGの供給に大きな制約をもたらしました。足元ではブレント価格が地政学リスクを反映して急騰し、投資銀行はさらなる上昇を予測しています。しかし、紅海危機が示したように世界の物流とエネルギー市場には強靭性があり、代替ルートや政策対応が機能すれば、供給ショックは吸収されるでしょう。ホルムズ封鎖が続けば短期的な価格上昇や物流混乱は避けられませんが、各国政府・企業の対応と国際交渉によって航行が再開され、ブレント価格も緊張緩和に伴い調整する可能性が高いと結論付けられます。


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