ホルムズ海峡封鎖によって世界の海上原油輸送量の約2割が途絶えた結果、WTIやブレントなどの先物価格が100ドル台に乗り、現物市場ではオマーン産やドバイ産原油のプレミアムが急騰して150ドル前後で取引されるなど、原油市場が極端な高値を付けた。このように供給減が大幅な価格上昇を引き起こす最大の理由は、石油の需要・供給が短期的にきわめて非弾力的であることだ。価格弾力性とは価格変動に対する需要量や供給量の変化率を表す指標で、ガソリンのような生活必需品では−0.05~−0.10程度と推定される。価格が10%上がっても消費は1%前後しか減らず、逆に20%の供給減に対応するには需要を20%削減しなければならない。その際の弾力性が−0.1なら、1%の需要減に10%の値上がりが必要であり、20%削減なら200%、つまり価格が2倍以上になる計算になる。供給側も余剰生産能力や代替航路が乏しく、短期には増産が困難なため、需給のバランスを回復させる唯一の手段が価格上昇となる。
この「テーゼ」に対し、価格が必ずしも倍増しないという「アンチテーゼ」も存在する。各国は備蓄の協調放出やガソリン補助金を実施し、米国や非OPEC産油国は増産準備を進めている。価格が高止まりすれば節約や代替エネルギーへの転換が進んで需要が抑制され、弾力性自体が大きくなる。投資家の多くは紛争が数週間以内に終結し海峡が再開されると考えており、そのため先物相場は現物市場ほどには高騰していない。歴史的に見ても、第一次石油危機では7%の供給減で価格が4倍に急騰したものの、その後の備蓄放出と省エネ努力によって価格は落ち着いた。
両者を統合すると、短期的には需要・供給の非弾力性と心理的なリスクプレミアムが作用し、20%の供給減が価格を倍以上に押し上げる可能性は高いものの、長期的には備蓄放出や増産、需要調整によって価格は調整されていくという「シンテーゼ」に行き着く。今回も、ホルムズ海峡の封鎖が長期化すれば200ドル近い史上最高値も視野に入るが、戦闘が早期収束すれば価格は80〜90ドル台に戻るとの予測もあり、最終的な価格水準は政治的展開と各国の対応策によって大きく左右される。

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