中央銀行は金を売るのか、それとも買い続けるのか

テーゼ – 中央銀行は買いから売りへ向かっている

  • 2022年以降、トルコ・ロシア・ポーランドなど一部の中央銀行は自国通貨防衛や戦費調達のために金を売却あるいは預金との交換に活用しています。例えばトルコは2026年の中東戦争後、通貨リラを支えるために約60トンを引き出しました。ロシアも2025年から保有を取り崩しており、ポーランドは国防費調達のために金売却を検討すると発表しました。
  • ホルムズ海峡の混乱で原油が高騰し、ドル需要が増加する一方、新興国通貨には急激な下落圧力がかかっています。中央銀行が外貨準備を防衛に振り向ける際、もっとも流動性が高い資産が金であり、価格に関わらず供給が市場に出るため、金価格の下落が続いています。
  • 金価格は2026年初めに1オンス当たり約5,600ドルの高値を付けた後、3月下旬には4,428ドル付近まで2割以上下落しました。高値圏では買い増しの効果が薄れ、1トン当たりの調整が大きくなるため、量的に購入を減らす動機が生じます。
  • 金利上昇とドル高により金の機会費用が高まっており、金保有を巡るコスト意識が強まっています。このため一部では「中央銀行による買いは終わった」「金市場の柱が崩れた」との見方が広がっています。

アンチテーゼ – 依然として構造的な金需要は健在

  • 世界的には中央銀行は16年連続で純買い越しを続けており、2025年には約860トン、2026年も世界金協議会などが800~850トンの買い越しを見込んでいます。ポーランド、中国、カザフスタン、ウズベキスタンなど多数の中央銀行が長期にわたり買い増しを続けており、マレーシアやインドネシアなど新たな買い手も参入しています。
  • トルコの売却分の多くは国内銀行の金預金を中央銀行が保管する形式の減少であり、スワップや流動性供給後に再び戻ると当局が説明しています。ポーランドの売却計画も売り戻しを前提にしたもので、実際に大量に市場へ放出したわけではありません。
  • 金は外貨準備の多様化やドル依存軽減、インフレヘッジとして重要視されています。2024年末時点で中央銀行準備の約2割が金であり、IMFデータによれば10%未満の国が目標比率引き上げを目指す場合、数千トン規模の追加需要が想定されます。
  • JPモルガンなどの投資銀行は2026年の中央銀行購入を約755トンと予想し、価格が高くても比率目標を達成するためには買いが続くと分析しています。価格が上昇しているため、トン数で見ると減少しても金額ベースでは現状以上に購入していることもあります。
  • 地政学的な不確実性やドル基軸への不安はむしろ金の戦略的価値を高めており、中国をはじめとする新興国は保有量を拡大しています。

ジンテーゼ – 買いのペースは鈍化するが「終焉」ではない

両者を総合すると、中央銀行の金買いは短期的な調整や一部の国による緊急売却によりペースが鈍る可能性があるものの、構造的な需要は依然として存在していると考えられます。

中東戦争や原油急騰が招いた通貨防衛のための金放出は、特定国の一時的対応であり、情勢が落ち着けば金を買い戻すと当局も表明しています。高値で買い増す必要がないことから、トン数ベースでは減少しても価値ベースでは保持・増加しており、総合的な保有比率は維持されています。また、ドルへの依存度を下げたい新興国やエネルギー輸出国は長期的な金保有拡大を目指しており、中央銀行間で金の役割に対する合意も強まっています。

したがって、「金買いの時代が終わる」という悲観論は、短期的な現象を誇張した面があるでしょう。地政学リスクや金融システムへの不信が続く限り、中央銀行は金を戦略資産と認識し続けるため、購入ペースは緩むものの構造的な需要は残るという見方が妥当です。

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