米国における「連邦予算」と「国家予算」の違い

米国は「合衆国（United States）」という名前の通り，憲法上は連邦制を採用しており，国家全体を運営する中央政府（Federal Government）と50州・自治体が分権的に役割を分担しています。このため，日本語で「国家予算」と訳されることがある概念が実際には幾つかの意味に分かれます。以下では，連邦政府の予算（連邦予算）と「国家全体の予算」に当たる概念（州予算と合わせた一般政府・統合予算）の違いを整理します。

米国の連邦予算（連邦政府の予算）

定義と役割 – 連邦予算は大統領が毎会計年度に作成して議会へ提出する中央政府の歳入・歳出計画です。大統領案は参考情報に過ぎず，実際の予算は議会で編成・審議されます。
規模と構造 – 2024年度の連邦支出は約6.8兆ドルとされ，米国GDPの約25％に相当します。歳出の約６割は社会保障やメディケアなど法律により自動的に支出される「義務的支出」，残りは国防や教育など毎年の裁量で決まる「裁量的支出」と国債利払いです。
財政運営の特徴 – 連邦政府は経済安定や再分配を主な役割とし，国防や社会保障など全国共通の政策を実施します。そのため巨額の借入を伴うことが多く，通常は赤字財政で運営されます。10年程度の予算見通しを用い，標準的な歳出プロセス以外の特別立法（例：補正予算）で多くの支出が決まる点が特徴です。
統合予算とオン・オフバジェット – 1968年の大統領予算制度改革では，従来複数あった予算の指標を一つにまとめた「統合予算」が導入されました。これは政府の全機能を合算して財政状態を評価するためのもので，現在も多くの議論や報道で使われています。ただし社会保障信託基金や郵政公社の収支は「オフ・バジェット」として扱われ，法定の歳出上限や報告義務の対象外とされています。

国家予算（一般政府・州予算との違い）

用語の混同 – 日本語で「国家予算」と言う場合，米国ではしばしば連邦予算を指すため，両者は同義と考えられがちです。米財務省も「政府支出」「連邦支出」「国家支出」「連邦政府支出」を同じ意味で用いています。
州・地方政府の予算 – 米国では州や地方自治体も独自の課税権と歳出権を持ち，教育・医療・福祉・警察・交通など住民サービスの大部分を担っています。2017年の統計では，州・地方政府の年間支出は合計約3.7兆ドルと推定され，国家全体の政府支出の約45％を占めました。支出の主な科目は初等・中等教育，高等教育，医療，福祉，治安，交通などです。
財政運営の違い – 州政府はほとんどの州憲法に均衡予算条項があり，歳入の範囲内で予算を編成しなければならないため，多くの州予算はバランスを維持します。財源は州所得税や売上税などであり，連邦からの交付金も重要な財源となります。
予算プロセス – 多くの州は１年または２年単位の予算サイクルで，知事が提案した予算案を議会が審議・修正して成立させます。州は将来の不況に備えて準備金を積み立てるなど積極的な財政調整を行うのが一般的です。
連邦との関係 – 州・地方政府は連邦から医療保険（メディケイド）や道路整備など多くの補助金を受け取っており，2023会計年度には州歳出の約35％が連邦資金でした。

まとめ（主要な違い）

観点	連邦予算（連邦政府）	「国家予算」に該当する州・地方政府予算
構成主体	中央政府。議会が歳出・歳入を決定	50州政府＋多数の地方自治体。各議会が独自に予算決定
主な財源	所得税・法人税・社会保障税など全国税。国債発行で赤字資金調達	州所得税・売上税・消費税・財産税・連邦交付金
主な歳出	社会保障・メディケア・国防・債務利払など全国的な政策	教育・医療（メディケイド）・福祉・治安・交通など地域サービス
財政運営	年間赤字が一般的。10年の予算見通しで政策形成。借入を財政調整に使用	原則均衡予算。1～2年のサイクルで予算編成し，準備金を積み立てる
統合予算との関係	統合予算により連邦基金と信託基金（社会保障等）を合算して財政状態を示す。社会保障信託基金・郵政公社はオフ・バジェット	州と地方自治体の予算は連邦予算に含まれず，国際比較で一般政府として集計される。

結論

日本語で「国家予算」と言っても，米国には中央政府の「連邦予算」のほかに州・地方政府の予算が存在し，これらを単純に合算した「国家予算」は制度上存在しません。連邦政府は社会保障や国防といった全国政策を担うため大きな赤字を容認し，予算枠も10年単位で検討されるのに対し，州政府は教育や医療など地域サービスを提供し，多くの州が憲法上の均衡予算条項に従って財政規律を保っています。したがって，米国における「連邦予算」と「国家予算」は同義ではなく，連邦制の仕組みに応じた複数の予算から成り立っていることを理解する必要があります。