第一次トランプ政権下の2018年、S&P500は終値基準で19.78%下落した後、約4か月で下落前の最高値を回復した。
日中安値基準では下落率が20%を超えており、実質的には弱気相場だった。しかし、その後は金融政策や通商政策をめぐる不安が後退し、株価はV字型に回復した。
この事例を踏まえると、
S&P500が20%下落した時点で、SOXLやSPXLなどのレバレッジ商品を仕込み、最高値回復を待つ
という戦略には一定の合理性がある。
ただし、20%という数字は底値を保証するものではない。重要なのは、下落率そのものではなく「なぜ20%下落したのか」である。
この戦略の有効性と危険性を、正・反・合の弁証法によって検討する。
正――20%下落は期待収益率が大きく改善する地点である
株価が高値圏にあるとき、レバレッジ商品を買うことには大きな危険がある。
高いバリュエーションに加えて、下落時にはレバレッジによって損失が拡大するからである。
一方、S&P500が直近高値から20%下落した時点では、少なくとも価格面での過熱はかなり解消されている。
20%下落後の最高値回復には25%の上昇が必要
S&P500が100から20%下落すると、指数は80になる。
80から100へ戻るために必要な上昇率は、20%ではなく25%である。
$\frac{100-80}{80}\times100=25%$
仮に、日次3倍型のレバレッジ商品が比較的滑らかな上昇過程で指数の反発を捉えれば、大きな収益を得られる可能性がある。
つまり、20%下落は、下落前よりも割安な価格で「将来の25%上昇」に投資できる地点である。
政策当局も20%下落を無視しにくい
S&P500の20%下落は、単なる株価調整ではない。
米国では株式が家計資産、年金、企業の資金調達、消費者心理に深く組み込まれている。そのため、株価が弱気相場入りすると、実体経済にも逆資産効果が及ぶ。
特に、関税引き上げや対中強硬策など、政権自身が作り出した下落であれば、政権には政策を修正する余地がある。
- 関税の延期・引き下げ
- 適用品目の除外
- 米中交渉の再開
- 市場に配慮した発言
- 企業向け支援策
- 半導体規制の部分的緩和
株価が20%近く下落すれば、政権は政策目的と市場安定の両立を迫られる。
したがって、20%下落後のレバレッジ投資は、単なる値頃感による逆張りではない。
市場下落が政権に政策転換を迫るという、政治経済的な反作用に投資する戦略
なのである。
2018年の事例は戦略の合理性を示している
第一次トランプ政権下では、米中関税摩擦、FRBの利上げ、世界景気の減速懸念が重なり、S&P500は次のように下落した。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 下落前の最高値 | 2,930.75 |
| 最安値 | 2,351.10 |
| 終値基準の下落率 | 19.78% |
| 日中値基準の下落率 | 20.06% |
| 最安値から最高値回復まで | 81取引日 |
| 暦日数 | 120日 |
2018年12月24日の最安値付近でレバレッジ商品を買えていれば、その後の急反発を増幅して享受できたことになる。
この事例は、
制御可能な政策を主因とする20%前後の下落は、レバレッジ投資の好機となり得る
ことを示している。
反――20%下落は底値ではなく、暴落の途中かもしれない
しかし、20%下落したという事実だけでは、それが最安値であるかどうかは分からない。
リーマン・ショックやITバブル崩壊のような局面では、20%下落は終点ではなく、さらに深い下落への通過点にすぎなかった。
下落率20%から40%へ進む危険
指数が100から20%下落して80になった後、さらに25%下落すると60になる。
$100\times0.8\times0.75=60$
指数の累計下落率は40%である。
日次3倍型の商品を80の地点で買い、その後に指数が25%下落した場合、単純化すればレバレッジ商品は約75%下落する可能性がある。
100万円を投資した場合、評価額は約25万円となる。
そこから元本へ戻るには4倍になる必要がある。
したがって、20%下落後に指数が最終的に回復したとしても、途中の追加下落によって投資家が耐えられなくなる可能性がある。
20%という数字に経済的な必然性はない
弱気相場を「高値から20%以上の下落」と定義するのは、市場の慣習にすぎない。
19.9%下落と20.1%下落の間に、企業利益や景気の本質的な違いがあるわけではない。
実際、2018年のS&P500は終値基準で19.78%下落した後に反転した。
もし「終値で20%下落したら買う」という厳格なルールを採用していれば、2018年には買い条件が成立せず、その後のV字回復を逃していたことになる。
ここに「20%ルールの逆説」がある。
政策当局が20%下落を意識して事前に動けば、指数は20%に到達する直前で反転してしまう。
したがって、20%を一つの絶対的な数字として扱うことはできない。
政策起因の下落が制御不能へ転化する可能性
関税は、政権の判断によって撤回・延期できる。
しかし、関税が引き起こした二次的影響は、政策を撤回してもすぐには消えない。
- 物価上昇
- FRBの利下げ余地縮小
- 設備投資の延期
- 企業利益の悪化
- サプライチェーンの分断
- 中国によるレアアース規制
- 消費者心理の悪化
- 景気後退への転化
当初は「制御可能な関税ショック」だったものが、途中から「制御困難なインフレ・景気後退」に変質することがある。
この場合、関税撤回が発表されても、株価がすぐに最高値へ戻るとは限らない。
したがって、必要なのは下落の出発点ではなく、下落の現在の性質を判断することである。
半導体レバレッジには二重の判断が必要
S&P500が20%下落したからといって、SOXLが自動的に最適な商品になるわけではない。
S&P500は米国大型株全体の指数であり、SOXLは半導体株に集中した日次3倍型商品だからである。
この戦略では、二つの異なる判断が必要になる。
第一の判断――米国株全体は底値圏に近いか
確認する項目は次のとおりである。
- S&P500の下落率
- 景気後退の可能性
- 信用市場や金融機関の状態
- FRBの金融政策
- 企業利益予想
- 関税政策の転換
第二の判断――半導体は引き続き主導セクターか
確認する項目は次のとおりである。
- AI向け設備投資
- ハイパースケーラーの設備投資計画
- 半導体企業の利益成長
- データセンター需要
- 半導体製造装置の受注
- 対中輸出規制
- 台湾をめぐる地政学リスク
S&P500が底打ちしても、半導体の設備投資循環が悪化していれば、SOXLは市場平均に劣後する可能性がある。
逆に、半導体の利益成長が維持されているにもかかわらず、関税不安によって一律に売られているのであれば、SOXLの反発力はS&P500を上回る可能性がある。
レバレッジETFは「3倍の長期リターン」を保証しない
SOXLやSPXLなどの日次3倍型ETFは、長期間にわたって指数の値動きを単純に3倍する商品ではない。
日々の騰落率を基準に運用されるため、相場が激しく上下すると、ボラティリティ・ドラッグによって基準価格が削られる。
例えば、指数が100から20%下落して80になり、その後25%上昇して100へ戻ったとする。
指数は元値に戻る。
$100\times0.8\times1.25=100$
一方、日次3倍型を単純化すると、
$100\times0.4\times1.75=70$
となる。
指数が元値に戻っても、レバレッジ商品は元に戻らない。
したがって、レバレッジ商品に適しているのは、底値圏から比較的短期間で一方向に上昇する局面である。
長期間にわたって乱高下する相場では、最終的に指数が回復しても、レバレッジ商品の収益が期待を下回ることがある。
合――20%は「一点買い」ではなく「出動領域」と捉える
以上を止揚すると、20%下落後のレバレッジ投資は、一定の条件の下で合理的である。
ただし、20%を最安値と決めつけて全額を投入するのではなく、18~25%程度の「出動領域」として捉えるべきである。
1.S&P500の18%下落から準備を始める
2018年のように、終値では20%に達する直前に反転することがある。
したがって、例えば次のように段階的に投資する。
| S&P500の下落率 | 投資行動 |
|---|---|
| 15% | 下落原因と景気状況を再評価 |
| 18% | 無レバレッジ商品を打診買い |
| 20% | レバレッジ商品を一部購入 |
| 25% | 金融危機でなければ追加購入 |
| 政策転換・反転確認 | 残りの資金を投入 |
この方法であれば、20%直前で反転する場合にも参加でき、20%を超えて下落する場合にも追加資金を残せる。
2.最初から3倍型へ全額投入しない
レバレッジの強さは、底打ちの確度に応じて段階的に引き上げる方が合理的である。
| 相場の状態 | 主な商品例 |
|---|---|
| 底値が不明 | VOO、SOXX、SMH |
| 政策転換の兆候 | SSOなど2倍型 |
| 政策転換と反転を確認 | SPXL、SOXLなど3倍型 |
| 最高値付近へ回復 | レバレッジを縮小 |
底値が不明な段階ほどレバレッジを低くし、上昇トレンドが確認されるほどレバレッジを高くする。
一見すると、最安値で3倍型を買うより利益は小さくなる。しかし、実際には底値を事前に特定できないため、破綻を避けながら反発に参加する方が再現性は高い。
3.下落原因によって出動可否を決める
| 下落原因 | 20%下落時の判断 |
|---|---|
| 関税・政策上の威嚇 | 分割投資を検討 |
| 金融引き締め | FRBの転換を確認 |
| 通常の景気循環 | 利益予想の底打ちを確認 |
| 金融システム危機 | 3倍型は原則として回避 |
| 戦争・台湾有事 | 半導体レバレッジは慎重 |
| 半導体需要の構造的減少 | SOXLではなく広範な指数を検討 |
「20%下落」は必要条件になり得るが、それだけで十分条件にはならない。
政策・業績・価格の三条件
この戦略が最も機能しやすいのは、次の三条件が重なる局面である。
価格条件
- S&P500が高値から18~25%下落
- SOX指数も十分に調整
- 極端な割高感が後退
政策条件
- 関税の延期・縮小
- 適用品目の除外
- 米中交渉の再開
- FRBの金融引き締め停止
- 市場安定を意識した政権発言
業績条件
- AI設備投資が継続
- 半導体企業の利益成長が維持
- ハイパースケーラーが設備投資計画を維持
- 半導体需要が循環的な調整にとどまる
三条件がそろえば、下落は「構造的な崩壊」ではなく「政策によって生じた価格のゆがみ」である可能性が高まる。
レバレッジ商品は、この価格のゆがみが解消される過程を増幅して取り込む手段となる。
出口戦略も事前に決めておく
レバレッジ商品では、買い時だけでなく売り時も重要である。
例えば、次のような出口が考えられる。
- S&P500が下落前の最高値を回復したら半分売却
- SOX指数が最高値を回復したらSOXLを売却
- 3倍型を無レバレッジETFへ戻す
- 政策転換が撤回されたらポジションを縮小
- 半導体企業の利益予想が崩れたら撤退
- 景気後退や金融危機への転化が確認されたら損失を限定
最高値回復後も3倍型を保有し続ければ、次の調整で利益を大きく失う可能性がある。
したがって、この戦略では、
弱気相場でレバレッジを高め、最高値回復に近づくにつれてレバレッジを下げる
という運用が整合的である。
結論――20%下落は底値ではなく、レバレッジ投資を始める条件である
S&P500が20%下落した時点でレバレッジ商品を仕込む戦略には、歴史的・経済的な合理性がある。
株価が20%下落すれば、バリュエーションは改善し、下落前の最高値へ戻るためには25%の上昇余地が生じる。また、政策起因の下落であれば、市場悪化が政権に政策修正を迫り、急反発につながる可能性がある。
2018年の米中関税摩擦では、S&P500は20%近く下落した後、最安値から81取引日で下落前の最高値を回復した。このようなV字回復局面は、レバレッジ商品にとって理想的な環境である。
しかし、20%下落が金融危機や景気後退の入口であれば、3倍型商品は致命的な損失を生む。さらに、2018年のように終値では19.78%で反転することもあるため、20%という一点に固執すると買い場を逃しかねない。
したがって、止揚された戦略は次のようになる。
S&P500の18~25%下落を出動領域とし、政策起因であること、金融危機へ転化していないこと、半導体の利益成長が維持されていることを確認する。そのうえで無レバレッジ商品から分割投資を始め、政策転換と相場反転の確認に合わせて2倍型、3倍型へレバレッジを引き上げ、下落前の最高値回復に近づいた段階で縮小する。
つまり合理的なのは、
「20%下落したら全力でSOXLを買う戦略」ではなく、「20%前後の政策的な価格のゆがみを、段階的なレバレッジによって取り込む戦略」
なのである。

コメント